資本環流と貿易赤字の持続性

前世紀の成功体験にしがみつく米中の恫喝は、どうせ一過性のヒステリーに過ぎないと言う前提で、そのときだけ廻りがある程度言い分を聞く程度のアメリカに対するあしらいになる時代が来るのでしょう。
言わばヤクザが息巻いている間黙って聞いているだけの関係と似ています。
これの前触れがトランプ政権の結果の見え透いた恫喝的取引外交です。
これを繰り返しているうちに、国際社会におけるアメリカの存在がドンドン軽くなって行くでしょう。
July 25, 2016「消費力←金融3」前後で消費力のテーマで書いて来ましたが、腕力政治・・大鑑巨砲時代が終われば、発言力は生産力によるのではなく、消費力によるのですが、まだその辺の理解が出来ないので時代遅れの国になりつつある所以でしょうか?
韓国が中国に露骨になびいたのは、04年から約10年間にわたり対中貿易がアメリカを抜いて韓国経済にとって世界一の関係になっていた事実・・今後益々拡大すると言う読みがあったからです。
15年のデータですが、以下のとおりです。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005986.pdf-
平成28年2月-外務省アジア大洋州局日韓経済室
中国は韓国にとり貿易総額で第1位の貿易相手国。
03年に対日貿易額を,04年に対米貿易額を上回り,15年は約2,274億ドルで貿易額の約25%を占める。
同年の対中輸出の割合は26.0%,対中輸入の割合は20.7%。
輸出依存度:(輸 出 の 対G D P比)50.6%(14年,世界銀行)と極めて高い比率。為替変動や他国の景気動向の影響を受けやすい経済構造(13年の日本の輸出依存度は16.2%)
上記貿易実態をみれば、朴政権が日米の制止を振り切って中国依存へ舵を切っていた背景が分ります。
ところが、頼みの中国経済が15年夏の上海株式大暴落以来変調気味になってきたことから、日米勢力圏へ回帰し日韓合意に踏み切りサード配備を決めた基礎事情でした。
生産力ではなく購買力が世界政治を決める時代になっています。
消費・購買力の基礎は資金力です。
資金力の本質的な差は持続性があるかの評価次第であって、株式発行による自己資本か社債発行によるかの差には本質的な差がありません。
発行済社債評価が下がっても発行体に関係がないようですが、既存社債の満期がしょっ中来る関係で、借換債発行が不利になるのは死活問題になります。
普通の国では長期間貿易赤字・・借金で消費しているとそのうち信用不安・・通貨が暴落で、ベネズエラ危機になります。
アメリカは貿易収支の赤字・・マイナス分をアメリカ国債購入などの資金環流で補っていますが、普通の国と違い基軸通貨の地位が続く限り、今のところ無限の可能性があります。
日銀引き受けによって政府がいくらでも国債を発行出来るのと同じような関係です。
この結果世界の製品を引き受けて、大幅赤字を提供して来ました。
貿易家赤字を続けると言うことは、その国からドンドンものを買ってやって大きな顔が出来る・・恩を着せられると言うことです。
国際収支上は、収支バランスが理論的結果ですから、赤字分同額の資本収支勘定の黒字=流入があります。
いわゆる資金環流ですが、これがいつまで続くかの問題・・基軸通貨国の地位は軍事力によるのではなく、経済力の裏付けがあってこそですから、資本収支・・海外収益還流が大きい我が国のような場合健全ですが、強面で強制的に資金環流をさせている場合いつまでも続くわけがありません。
アメリカが海外収益の拡大が続いて基軸通貨国の地位が続いた場合にも、・・海外子会社の収益還元であれ、国公社債購入であれ資金環流に頼っていると現場労働によらない収入ですから、この恩恵を受ける層と受けられない層(・・これが大多数です)に分かれて来ます。
最貧国への援助であれ、資本環流に頼る社会では、(5月13日に書きましたが、)これに関与出来る階層(先進国ではグローバル企業や金融資本家や関連従事者・後進国の場合独裁政権幹部の賄賂)と関与出来ない階層の国内格差が拡大する一方で格差問題が解決しません。
(後進国への巨額援助に関与する高官の賄賂収受と中国の巨額賄賂も根っこは同じで外資導入・・外資・・店舗や工場新設許認可に関与する「袖の下の横行」にあります・・中国が外資に頼る時代が終わると国民相手の賄賂要求では多寡が知れているので賄賂も激減するでしょう)
格差問題の根源は、資本流入に頼る経済にあるとすれば、反格差論はイキオイ貿易赤字解消運動に帰結するしかありません。
これがトランプ氏の保護主義・国内生産回復政策→貿易赤字解消策であって一応理論としては一貫していると思われます。
これに加えてアメリカが永久に貿易赤字を続けて行けるか先行き不安解消もあって一石二鳥の主張です。
いつまでも大幅赤字を続けられない・何とかしろ!と言われるとアメリカの赤字で潤っていた日中韓など黒字国はうろたえます。
軍事力が怖いのではなく、赤字=黒字削減を言われるのが怖いのです。
貿易赤字国は損をしているのではなく、実は働き以上の消費をして「得して」来た関係です。
働かないでうまいことをする関係は長く続かない・・貯蓄がなくなるとあるとき遂に支払が出来なくなる・・イキナリ最貧国転落・・10何時間時並んで漸く必要な食糧の一部を手に入れられるだけの今のベネズエラみたいになります。
アメリカの場合も、資金還流が止まるとおしまいです。
資金環流には自国企業の海外収益還流と強国へのおつきあいで(巨大な貿易黒字を多めに見てもらうために?)義務的に環流させられている資金の2種類があります。
日本や中国の政府がアメリカ国債を買わされているのは目に見えた還流強制ですが、トヨタなどが無理にアメリカに工場を作らされる・・その分資本環流させられているのもこの一種です。
無理が利くのは消費力があるからですが・・これがいつまで続くかです。
義務的とは言え、長期的に見れば資金移動は投資効率が基準であって、金利の高い方〜安全な方に流れたいのが本来です。
以前は「有事のドル」と言われ国際政治上の危機・動乱が起きると一時的にドルが上がり、さすがにパックスアメリーカーナと言われるだけのことがあると言われたものですが、この20年間程は、「有事の円」となってアメリカドルよりも円が上がります。
こう言う状態下で、アメリカ国債が日本より金利が安いと何のために割高な(金利の殆どつかない)アメリカドルを「イザというときのために」保有しておく必要があるか?アメリカ国内工場を造っても採算が合わないと続きません。
例えば中国に取っては国内基準金利でさえも4〜5%ですから、国債利回りで言えばこの2〜3倍とすれば、15日に紹介した金利のアメリカ国債を買って保有しているのは完全に逆ざや・・大損です。
このためもあって中国のアメリカ国債離れ・・ユーロなどへ分散投資の流れが続いているのですが・・これを阻止するためにアメリカは一刻も早く金利を上げるしかない・・いわゆる出口戦略・・金利上げに必死なのです。
エコノミストは「アメリカがやっているから、日本も出口戦略策定を急ぐべき」と言いますが、日本は世界最強債権国ですから金利上げを急ぐ必要性がありません。
・・それどころか日本が金利を挙げたらアメリカその他世界の資金がみんな日本に吸い上げられて困ってしまうでしょう。
アンカーの日銀がむやみに金利を上げると市中銀行がその上乗せ金利で貸すしかない・・中銀が金利を上げると金融引き締めになるのと同じで、世界経済のアンカ−たる日本が金利を上げるとみんな一斉に上げるしかなくなり参ってしまいます。
アンカーの金利は最低でないと世界は混乱します。

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