違法収集証拠の証拠能力(違法性の程度)2

具体的な違法行為をしていないのに、憲法文言を類推して拡張解釈し、令状なしの捜査をしただけで違法収集と認定し、しかも証拠能力まで結果的に否定したことになります。
一般的に法制定が必要とか憲法改正が必要と言う論法は、何でも反対・・思考停止を求める勢力が多用する方法です。
たとえば、集団・共同防衛が本当に必要と言うならば民意で決めるべき・・必要ならば、憲法を変えてからにすべきだと言うのにも似ています。
現状維持勢力の基本的主張です。
しかし自衛の範囲に同行者・相互防衛関係にあるものが襲われた場合にそのときに反撃に加わるのが共同防衛・・自衛の範囲に含まれるかの緻密な議論を先ずすべきですが、敢えてこの議論を飛ばして短絡的に憲法問題にしているマスコミの姿勢と似ています。
国会や民意に委ねろと言うのは一見正論ですが、物事には法制定に馴染まない分野も一杯あります
たとえば、・・違法収集証拠の排除問題は違法態様にもいろんなバリエーションがあるので、事例集積を図ってどの程度の法違反があれば証拠作用されないかの基準が形成されて行くべき分野・・事前の画一的法制定には向いていません。
最高裁自体も令状なし捜査が許されないとしながらも、どのような令状捜査が可能かは非常に難しいことを書いています・・日進月歩の先端技術開発が進んでいる現在予め具体的に決めて行くのは無理がありそうです。
ソモソモ令状主義が出来た時代には、容疑者が令状を示されたときには取り囲まれていて逃げられない・・あるいは逮捕されてから身体検査令状を示されて逃げられない・家宅捜索や身体検査の場合、証拠隠滅しきれないのが原則だったことを前提に成り立っています。
GPS装着前に令状を示すなどしていたら捜査の実効性がないことは明らかですから、最判が令状なしの捜査が違法と言うのは不可能な要求している・・ 結局GPS捜査禁止と同じ効果があります。
あとは立法の問題として司法権が立法に丸投げすると立法作業期間中捜査の空白が生じてしまいます。
その程度のことはプライバシイ侵害可能性と比較して、仕方がないという価値判断でしょうか?
犯人の受けるプライバシー被害があるとしても(最高裁は「あり得る」と言うだけでどう言うプライバシイ侵害があったかを認定していません・・・可能性だけです)この程度の被害は許容されるかどうかをもっと緻密に掘り下げて議論すべきだったように思われます。
防犯カメラもプライバシイ侵害可能性がありますが・公道に限らずトイレなど・・それでも必要性との兼ね合いで(九州弁連で反対のシンポジュームらしいものを開いていたことを以前紹介しましたが・・)社会的認知を受けています。
防犯カメラは民間が行なう点で捜査とは違うし、不特定多数相手で特定事件があってからチェックするだけで事件がなければ自動消去してく仕組み・特定者を継続的監視する仕組みではないのに対して、GPSは特定のクルマを継続監視する点が違います。
そのうえ利用者は承知の上でトイレ利用するから隠密裏に行なうGPS捜査と大きな違いがあると言うのでしょうが、急にトイレに駆け込みたい場合選択の余地がない点・・一般のスーパー等でも防犯カメラのないトイレを選べないように思いますが・・をどう評価するのでしょうか?
ところで捜査か民間かあるいは事前承諾の有無の判断と侵害の程度判断とは次元が違います。
被害の程度判断過程に承諾の有無や捜査か否かを持ち込むのは議論を混乱させることになります。
先ずそれぞれの次元・・プライバシー侵害程度についてはその次元で判断すべきでしょう。
最判判旨の一部をもう一度引用しますと「個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るもの・・」となっています。
しかし、GPSクルマ装着の場合個人の洋服につけるのとは違い、実際に誰が乗っていたかも直接的には不明、(・・本件では犯罪集団の内偵でしたが、犯罪集団が利用している場合所有名義人が乗っていることの方が少ない)クルマの移動経路時間帯が分るだけですから、「個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴う」と言う最判は事実認定が甘過ぎる印象です。
他の情報と合わせると偶然分ることがあるかも知れませんが、GPSから「必然的」に分るものではないでしょう。
4〜50km走った場合、途中の幹線道路設置したところだけで切れ切れに写っている防犯カメラの映像の組み合わせで(窃盗現場が住宅街が普通とすればかなり距離があります)運転する個人が特定出来ることがあると言うならば、その他の情報(傷害犯行現場写真のシャツの端っこの映像で)も「偶然」手に入れたいろんな情報の組み合わせで分る点は同じです。
しかも判決書きによれば私的領域に幅広く侵入・・と言うのですが、私の知っている限りでは(捜査の場合もっと精度が高いかも知れませんが・・)、GPSは50メートル前後しか特定できないことになっているので、ただちに私的領域・誰とデートしているか何をしているかが分るものではありません。
顔写真には周辺景色も写るので1メートル単位の一特定が可能ですが、プライバシー性の濃密さで言えば、プライバシー侵害の深刻度は防犯カメラに比べて低いと言う見方も成り立つでしょう。
防犯カメラには通行人の暗黙の同意があると言っても、防犯カメラは公道や広場等では全て設置されているわけではない・設置されていない場所の方が多いので・・(私の事務所近くの道路などを考えても)具体的にどこにあるかも知らないし、防犯カメラに自分が写っているかを知っている人の方が少ないと思われます。
警察が知りたいのは主に停止時間帯と近隣窃盗被害との関連性程度・・犯行を直接証明出来るわけがないので捜査の端緒にしたい程度ですが、この程度の関連性があるだけ証拠価値ゼロにしなければならないほどのプライバシー侵害になるかについてはもっと掘り下げた議論が必要です。
これをしていないままアンチョコ(最高裁大法廷の認定を一介の市井の弁護士がこのように言うのはおこがましいですが・・)に令状の必要性を認定している印象です。
ところで令状必要性に関する判断も今後の実務を拘束する点で重大な判断であるにも関わらずアンチョコすぎる印象です。
この部分をもう一度引用します。
「(2)憲法35条は,「住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ,この規定の保障対象には,「住居,書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。」
「そうすると・・令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。」
憲法35条二項が判文に出ていないのでついでに35条全部を紹介します。
第三十五条  何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」
35条に該当すれば、令状がなければ出来ないことになります。
冒頭に書いたとおり、「令状主義」は当時の捜査対象との関係で決まって来た歴史がありますから、令状を要する保護対象をどこまで広げる必要があるかの重要な論点を「侵害しうる」と言う粗雑な認定であっさり決めてしまった判旨はこれを無視しているか気づいていないように見えます。
何回も書くように私は憲法のプロではないので憲法のプロの間では幾多の議論の経緯があって、それを踏まえた判決かも知れませんが・・。

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