対外強行主義の限界3

司法と政治の関係に話題がそれましたが、2月1日までに書いていたトランプ氏の強行策の見通しに戻ります。
内政で勝負している政権の場合、金融も含め政策はいつも当面の対策であって時期が過ぎればその都度方針変更・修正して行くしかない前提ですから、状況の変化によって修正するのは想定範囲です。
地域大国で対外強行発言で政権を維持している場合の共通項の多くは、複雑な内政調整能力が低い場合に多く見られる現象です。
単純思考で威張り散らすのは・・周辺が弱いときには簡単なので,このような誘惑が起きます。
一般的に対外強行発言者は,強者の論理・・2択の単純対決型・・を振りかざすのが好きなグループの支持を受けています。
トランプ氏の選挙演説の傾向は,報道のバイアスがかかっているので正確性はイマイチとしても、1月30日から世界的騒ぎになっているアラブ7カ国に対する入国禁止措置の実行を見ると,弱者迫害傾向は本物であったし、実務に入っても支持者を裏切れない?からこれの中央突破を図るしかないと決めたことが分ります。
妥協するよりは中央突破しかないと決めたとすれば、中央突破に失敗すれば(籠城している城方が最後に打って出るのと同じで失敗すれば討ち取られます)政権の命取りになると自分で決めていたことになりそうです。
入国禁止の大統領令を強行すれば仮処分申請が出るのは目に見えているのに、これに対する備えが殆どなかったように見えるのが不思議です。
2月11日のコラムでサンフランシスコ高裁での口頭弁論の模様の紹介記事・http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaokanozomu/20170210-00067544/トランプの研究(6)」の一部を紹介しましたが、その紹介が正確かどうかは別として、これを読む限り訴訟対策の読みが甘かったどころか殆ど準備していなかった・・泥縄式の印象が拭えません・・訴訟プロの人材不足の印象です。
政権側は急いで異議を出したので準備不足と言うのですが、大統領命令を強行すれば仮処分で抵抗されるのが必然の流れ・・命令執行するときに予定・準備しておくべきことです。
いわばこの訴訟は事実上政権が仕掛けた当然の流れにあるものですから、準備不足を言えるのは仮処分申請側の方です。
マスコミで報道されているトランプ政権内の各分野における熟練人材不足の一端がここにも出ています。
あるいは周囲の意見を聞かないワンマン政権の脆さです。
将棋や囲碁では何十手も先を読んで指すモノですが、入国禁止実施に対して仮処分申請があり得るのは、ホンの一手先・・予想される抵抗戦の第一歩ですが、これがあり得ることすら想定していなかった・・先を読まない素人集団・あるいは読みの浅い政権である本質を表したことに世界中が驚いたでしょう。
この結果反トランプ勢力が一気に力を得て、大統領補佐官であるフリン氏に対する攻撃が始まりあっという間に同氏の更迭表明に追い込まれました。
続いて労働長官候補が、辞意表明するなど足下が揺らいで来ました。
現在15長官の内議会承認を得たのは僅か9名に留まると報道されていましたが、昨日温暖化政策反対の環境保護局長官が承認されたと報道されました。
トランプ政権は手足になるべき閣僚任命がままならない・・手足をもがれた状態・人材不足から、いよいよ失態が続く悪循環を反対勢力が狙っていることは明らかです。
大分前に書きましたが米国の場合、政権交代があると数千人規模の政治任用職員がいて、その何割かの政府高官が入れ替わる仕組みです。
シンクタンクがあって回転ドア形式と言われますが、同等能力の受け皿能力があっても昨日まで実務をやっていた人とシンクタンクで研究していた人が入れ替わってしまうと引き継ぎその他で無理が出ます・・このため政権始動後100日間のハネムーン・マスコミが批判を控える慣習があるのでしょうが、無茶な制度が成り立っているのは、元々米国の実務能力が低いから可能だったかな?と言う意見を書いたことがあります。
長官指名がうまく行かないだけではなく、政府高官にる人は、シンクタンク等で相応の識見を持っている人が多いのでトランプ政権と意見が合わないと政権入に応じません・・このテクノクラートの応募者が少ないと何をやるにも詰めが甘くなって参ってしまいます。
安倍総理歓迎の意味でトランプ氏経営のゴルフ場や別荘に招待する計画していたところ、私企業優遇?汚職?になると言うことで直前ドタキャンも出来ず、急遽国費から出さず、トランプ氏の100%自費招待になったのもその一例でいつもドタバタ劇です。
この程度のことは自費で解決出来るので良いのですが、自分で責任をとりきれない分野では収拾のつかないことが次々と発生します。
トランプ氏の言動は先が読めない原因の1つは詰めの甘い意見を発表することにあります。
こう言うときは慌てて討って出ない・・次々と敵を作らないで先ずは内部固め・体制立て直し・・に取り組むのが政治の常道でしょう。
トランプ氏も国内政治の方向転換をすると白旗を掲げたようになるし支持の離反もあるので難しいが外交なら・・と言うことで、ここで外にも敵を作っていられないと思い直したのか?日米首脳会談直前に拒否していた中国との首脳電話会議に応じて台湾問題でも方向変更していますし、その流れの中で安倍会談があったことが明らかです。
このタイミングで安倍総理との首脳会談が決まっていたので、このチャンスにトランプ氏が飛びついた結果が安倍総理の大成果に結びついたのです。
国内基盤脆弱で外交をすると不利・逆に国内基盤盤石であれば、外交が有利に進む典型事例です。
逆から言えば、歴代韓国政府のように国内失政の穴埋めに外交を利用するのは一種の売国行為であることが分るでしょう。
ただし、トランプ政権が日本と仲良くすることがアメリカにとってもよかった筈ですので、(これを説明するの安倍総理の役割でしたから結果からみれば大成功です。)間違った方向へ行かなかっただけのことです。
日本にとってタイミングよく会談出来たので、(運が良かったと言うのではなく準備を営々と重ねて来た安倍政権の能力が高かった・・運は招き寄せるものです)日米に取ってウインウインの関係を構築出来たことが確かです。
トランプ政権がうまく軌道修正出来るかが重要ですが、日本のように正義のクニとは違う・・相手が弱いと分れば直ぐにつけ込む他国相手でうまく行くかは未知数です。
日本の場合、トランプ氏が無茶をやらないで、いろんな意見を聞いて正常な政治をしてくれれば良いと思うのが普通ですが、多くのクニでは相手が弱いとなれば更に叩こうとするのが普通です。
アメリカ国内でも「ちゃんと政治をやってくれれば良い」と言うよりは、勢いづいて任期途中の辞任に追い込もうとする勢力が多いでしょう。
これが勢いづくとその間アメリカの国内政治が混乱するだけではなく、超大国と言えども対外的地位低下する・・国益に反することは明らかです。
今の韓国大統領に対する弾劾騒動が韓国の(内政外交を含めて)どれだけ国益に反する結果になっているかを見れば明らかです。
明治維新のときの賢明な動きと比べても、これが日本と他国・社会との成熟度の違いです。

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