トランプ新大統領の主張は,自国の競争力(民度)を無視した剥き出しの結果重視主義ですから,言わば能力主義の旗を降ろしたことになります。
自由主義社会とは日々の競争を通じて日々ランキングが変わって行く社会のことですが,自由な競争の結果勝った・黒字が出たら不公正貿易国認定し高関税を掛ける・・それがイヤなら自主規制,または「一定率の輸入を増やせ」と強制するのですから,これでは現状固定主義と言うしかありません。
このやり方は、「能力のある国や企業の挑戦・台頭を許さない」と言う意思表示とほぼ同じです。
自由平等の基本的人権思想は、能力面の自由競争を保証し、その結果生じるランキングの上下変動・能力に応じた出世や降格・淘汰を認める社会をめざすものです。
これを国家や企業に適用するのが市場経済主義であって、売り上げが伸びた結果だけ見てその企業を不公正企業と認定して課徴金や高関税を課し、企業利益や規模アップを抑止するのでは、能力主義の禁止または大幅抑制主義になります。
能力を伸ばさせない・・企業の浮沈を抑制し、過去の実績を基準にする=現状の国力・生産力固定主義=能力に関係なく家禄は一定だった江戸時代の世襲制の焼き直しになってしまいそうです。
アメリカは国家間競争だけ儲けを基準に制限しようとするものですが,この論理を国内にも及ぼせば,個人や企業が儲けが大きいと「お前は不公正競争しているに違いない」と言って,取り締まるのと同じです。
「国内ではそんなひどいことしませんよ!」と言うならば,何故「外国相手なら何をしても良いと」言えるのかが問われねばなりません。
欧米の言う人権や正義は市民・支配層間だけのことであったし,これを国民全部・ピープルに及ぼした現代でも、「外国人・異民族に対しては何をしても良い」という意識が強いから,(対日戦争では,一般人の大量殺戮を繰り返しました)国内外でためらいなく基準を変えられるのでしょうか?
ところでトランプ氏個人批判が強いので誤摩化されますが,この種の主張はオバマ政権でも既に出ていて,一定率以上の国際収支黒字国を為替操作国と認定する基準を発表し,その対象に日本が入ると発表されていました。
ウイキペデイアによると以下のとおりです。
「為替操作国(かわせそうさこく)とは、アメリカ財務省が提出する為替政策報告書に基づき、アメリカ議会が為替相場を不当操作していると認定した対象国。
アメリカ財務省は、1988年から毎年2回議会に対して為替政策報告書を提出している。
2016年4月29日にはアメリカ財務省は為替介入を牽制するために為替監視リストを発表し、中国・台湾・韓国・日本・ドイツの5カ国が監視対象となった」
上記には監視対象国基準を書いていませんが、以下のロイターの記事のとおり当時の報道には,黒字額を基準にしていると報道されていました。
Business | 2016年 04月 30日 06:40 JS
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「米為替報告、日中独など大幅な黒字国5カ国を監視リストに」
上記のとおり不公正の監視対象国指定根拠は単に黒字が大きいか否かだけですから、大幅な黒字国の発生を許さない→将来黒字国の国力上昇の芽を摘む・・国力変動を認めない意思表示となります。
競争にはルールが必要ですから不公正競争が許されないのは当然ですが、何が不公正かを誰がどのように決めるべきかとなれば、国内の基準(・・例えば不正競争防止法など)はその国で決める・・主権の範囲内でしょうが、国家間の取引ルールの基準は国際合意で決めていくべきが当然です。
国内基準であっても,議会や相応の審議会などの議を経ないで権力者がイキナリ「鶴の一声」で決めるとなれば専制支配と同じです。
国際関係について、ある国が一方的に基準を作り他国に強制するのは、国内的に見れば独裁手法を取っているのと同様の評価を受けるべきでしょう。
不公正貿易に関する国際合意機構であるガットやこれを継承したWTOなどの国際合意システムが戦後発達して来たのは,強国(アメリカ)の横暴が第二次世界大戦の原因になってしまった反省から,これを許さないと言う国際意識の高まりによります。
折角営々と築いて来た国際合意をアメリカが無視して、どのクニを不公正貿易国と認定するかは、アメリカ政府のサジ加減・・黒字率を何%にするかの決め方次第でやって行くと言う横暴な宣言がトランプ氏の発表です。
中国で存続して来た専制支配の宣言とどう違うのでしょうか?
このような考え方の基礎になっているいわゆるスーパー301条に関する日本大百科全書(ニッポニカ)の解説スーパー301条 – Wikipediaの解説です。
「アメリカで制定された「1988年包括通商・競争力法」の条項の一つ。不公正な貿易政策をとる国を特定し、制裁措置を振りかざしながら譲歩を迫るための手続を定めている。具体的には、アメリカ通商代表部(USTR)がアメリカ製品の輸出を妨げている国と政策を特定し、それを改めるよう交渉し、交渉後一定期間内に満足できる成果が得られない場合は、関税引上げなどの報復措置がとられる。
このような一方的な措置は、世界の貿易ルールを定めた世界貿易機関(WTO)協定の精神に違反していると国際的に強く批判されているが、アメリカ市場は巨大であり、理不尽と考えても交渉や譲歩を拒み続けられる相手国は少ない。」
今はスーパー301条が有名ですからこの時からアメリカの無茶が始まったかのように誤解している人が多いでしょうが、アメリカの身勝手な保護主義の動きは戦前から続いています。
大恐慌発生による不況脱出のためアメリカが高関税の口火を切って,西欧やカナダから直ちに報復関税を受けるなど(・・この関税強化戦争が第二次世界大戦の原因になったことは良く知られているとおりです)国際経済はガタガタになりました。
アメリカは元々社会的練度の低いクニですから、何かあるとすぐにショックを受けてしまい短絡的行動に走り易い・・極端な保護主義に走り易いクニであったことが分ります。
こうした我がまま主義ををモンロー主義とか孤立主義などとオブラートに包んで表現するので、私のような素人には気が付きませんでしたが,図体の大きなアメリカが自分が強いときには自由貿易の旗振りをしていて競争に負け始めると閉じこもり宣言・・図体が大きいので廻りが放っておけないことを良いことにわがまま放題やって来た歴史が分ります。
無茶であろうとも図体が大きくなりすぎているので国際ルール破りを除外する訳にはいかない・ボイコット=経済的に見ればイキナリ国際物流の断ち切り宣言ですから,廻りの迷惑は計り知れません。
日本で言えば対米貿易が数十%もありますから,お互いに相手にしないとなれば日本にとって大打撃です。
その上日本からの他国への輸出入もアメリカが絡んでいることが多いので,世界中がアメリカとの貿易を拒否すると世界の物流が大混乱します。
地域的に見ればスエズ運河が止まると大変なので,廻りが放っておけないのと同じです。
アメリカがいくら無茶しても世界中がこれをを拒否し貿易から除外出来ない所以です。