2国間交渉社会に戻ることは可能か?1

日本の場合議院内閣制の結果、国政選挙だけではなく地方選挙による民意修正がひっきりなしにあるので、上記土井党首辞任のように民意反映・修正が早いのですが,大統領制の場合、任期が固定されているので票目当ての無責任煽動が起きると被害が大きくなります。
パク大統領の慰安婦騒動も同じで単純化して煽ってしまった挙げ句の日韓合意では、国民が収まらなくなって進退窮まった好事例でしょう。
現在のパク大統領に対する退陣要求高まりは、表向き批判は個人的関係者への便宜供与や機密漏洩ですが,反朴感情高まりの背景には国際政治関係が実際にうまく行っていないことや,財閥に対する切り込みを公約していたのに実現しない不満+経済不振→若者の就職難・格差拡大不満,昨年末の日韓慰安婦合意に対する不満等々・マグマ?がたまっていたことが明らかです。
民意自体をきめ細やかに積み上げて行かずにスローガンで感情的に決める社会では、その対としての政治体制も不満を柔軟に吸収して行けない・硬直しているので、不満がたまれば「デモ」と言う力技で社会を変えて行くしかないのでしょうか。
今回の大統領に対する退陣要求が暴動的争乱になっていない点は進歩と言えるようですが,正常なルート・落ち着いた話し合いでは民意を反映出来ない仕組みになっている点は同じです。 
トランプ氏の二国間交渉論に戻ります。
2国間だけでの貿易均衡だけ図る交渉は比較的単純です・「お前のところの対米黒字を◯◯まで減らさないと制裁を加えるぞ!」と言うスーパー301条方式延長で可能です。
世界全体で多角的な貿易収支均衡を図るのが変動為替制度ですが、トランプ氏が主張する・・TPPなどの多角交渉を全部やめて行く2国間主義・・2国間だけで均衡を図るとなると結果的に高度に発展した多角的貿易体制を破壊することになります。
貨幣利用の智恵は直截交易相手と交換するものがなくとも貨幣に転換すれば、別の人から欲しい物を買えるので、一対一の物々交換から3人集まっての3者交換〜4者〜5者〜10者交換と広まって行き,遂には市が立つ(今の広東交易会等の原理)ようになり、その内抽象的な貨幣制度→債権・手形や有価証券売買などが発展して来ました。
2国間協定はアメリカのpeople・民度向け・・昨日書いた弁護士向けの交渉術・単純思考でアメリカpeopleにも分りよいですが,言わば一対一の原始物々交換経済に原理的に戻るようになります。
現在社会では経済要素が100〜200の要素に留まらないほどの複雑な絡み合いで成り立っているので、一対一で決めたルール・・個人で言えばその日どこかへ行く約束すれば別の友人と同時間帯に別の場所へ行く約束を出来なくなるように,2国間協定(・・ある国だけ関税優遇すれば競合輸出国が割を食いますし、その逆もあります)は他国へ影響を及ぼさずにいられません。
これを強権的に多角・重層的判断経験のない政治の素人が決めることは不可能な時代に入っています。
ちなみに西欧から入って来た経済学も単線思考形式である点は基本的に同じように見えます。
何回も書いて来ましたが,彼ら「偉い」人の意見は「その他与件が一定であれば・・」と言う前提条件付きの議論ばかりです。
ところが,現実の動きにはその他与件が一定のことなどあり得ませんから,空理空論を述べているだけで,いつも現実の動きに全く合わないことばかりですが,彼らは全く予想に反した結果が生じてもその直後からまたマスコミで「今回の株価の動きは・・」などと平然としてあらたな御託を並べています。
そんな意見を聞いて商売していると何回倒産しても間に合わないので、事業に成功する人は学者に頼らずに総合的直感で新たな事業をやって成功しているのが普通です。
ソ連の計画経済体制が失敗した原因です。
国と国の関係では各種変数を織り込んだ為替相場変動(神の手)で修正し,個別修正は市場経済・・各種(原油や資源系の各種商品相場や海運市況)商品相場や株式・債券相場の動きによって修正して行く時代です。
これを腕力・権力だけで一方的に決めつければ(低レベルpeopleには)痛快でしょうが,無理をすれば必ず反動が起きます。
無理→暴動による修正も、微妙な民意吸収による小刻み修正繰り返しも、後から見れば結果は同じかも知れませんが、同じことならば社会をひっくり返すような騒乱によるよりは,徐々に社会が変化して行く方が国民にとって幸せです。
自由平等博愛などのスロ−ガンを並べたフランス革命のようなことをしなくても、何も言わずに徐々に発展して来た日本社会の方がずっと進んだ社会だと書いて来た理由です。
ところで、吉宗が米相場で苦労したのと同じで,権力者が「今度こうするぞ!」と言えば,一応関係者の短期的萎縮効果などがありますが,結果的に国内の米相場1つさえもうまく行かない・・まして外国相手においてオヤ!と言うところです。
ここでは、二国間交渉論は複雑な経済の動きを言わば「物々交換の時代」に戻ろうとしているのと同じである・・経済交流に例を借りて書いているだけで・・国際政治と言うものは国内政治以上に(相手側の民族特性が国内以上に理解困難の結果)更に複雑です。
経済交渉は複雑でも「利」を競う点で土俵が決まっていますが,政治は「利」だけでないばかりか,・・民族感情・過去の経緯など上部構造・・文化や歴史個人的好悪感情を織り交ぜて成り立っているその何層倍もの掛け算による複雑なものであり、(だからこそ政治と経済学とは一致していません)どんな強権を持った政権でも,これを権力者の一存で変えることが不可能である現実を書いています。
旧ソ連のスターリンによる強力な独裁制度下でも無理を通していた結果、最後は破綻したし,中国の独裁による経済運営の無理が今にも出て来そうな段階に入った原因です。
トランプ氏のスローガンを実行するには一見して経済原理無視・・既存国際秩序破壊の無謀な政策になりそうなので,プーチンや中国が「これまで出来上がって来た国際秩序を守れと言われなくなりそう」という期待で歓迎する方向性のように見えます。
トランプ氏の登場が,世界の自由貿易秩序に反する独裁体制下の不合理な経済体制を延命させる方に本当に向かうのでしょうか?
そうはいかないでしょう・・却って遠慮がなくなる・それぞれが自己抑制が利かなくなる結果、破滅を早くするだけではないでしょうか?
ところで高関税・高率消費税がかかると国内消費は大幅に減りますが、損をするのは消費者だけとは限りません。
高関税の結果輸入品が割高になってある程度国内生産回帰出来るでしょうが,国内回帰するアメリカの工場・生産者だけが世界相場よりも割高な人件費,部品や原料を使うしかなくなりますので結果的に国内生産コストも割高に変化します。
しかもアメリカに輸出していた業者にはアメリカ企業が海外進出して製造したものが多く含まれるでしょうし,(アップルなどはほぼ100%中国で製造?)コトは簡単に行きません。
ロシアなどがよその国と対立して輸入禁止しても,ロシアの企業が海外進出を殆どしていないのでロシア企業にそれほどの損がありませんが,先進国になればなるほど世界中に進出している・・しかも自国への輸入品関連から先に進出するのが普通ですので自国企業が真っ先に被害を受けます。
(最初に中国へ出た企業・・食品であれ,衣料であれあれ日本人向けの嗜好に合うように現地指導していました)
アメリカの場合、自国企業が中国やメキシコなどへ進出してしまって国内空洞化進展に腹を立てているのですが、その分そっくり自国企業が海外に工場を持っている関係ですから,制裁をするとアメリカに逆輸入している自国企業が真っ先に・最大の割を食います。
今回の北方領土交渉進展を誘導するためのロシアへの経済協力で見ても,日本への輸出目的の産業進出が中心です。
以上のとおりで,トランプ氏の対外選挙スローガンは無茶苦茶過ぎて政策とは言えない代物・・長期的には多分実効性がないと言うのが専門家の見方でしょう。
1つ二つは強引過ぎても折角権力者についたのだから・・とある程度廻りが既存秩序との亀裂修復に工夫して何とかするでしょうが,あちらでもこちらでも皆強引と言うのでは廻りが取り繕い切れない・・結果的に行き詰まってしまう可能性があります。

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