トランプ氏とスローガンの実効性2(スーパー301条)

トランプ氏がもし正常な理性を持っているならば・あるいは,これを支持するアメリカ人がある程度マトモに歴史を勉強しているならば大恐慌時の大失敗・・第二次世界大戦の原因はアメリカの自分勝手な行為に始まります)を自ら再現することはないでしょう。
せいぜい,制裁すると脅して相手から少し譲歩を勝ち取る程度ではないかと見るべきです。
実際にやれそうなことは往復貿易量も少ないし,報復力のない弱小国相手に関税アップするくらい・・要は弱いものイジメでお茶を濁すことになるのではないでしょうか?
合理的に考えると貿易収支均衡点までの輸入制限の交渉合意をすれば,相手国との折り合いがつきます。
実際にアメリカはこれまでスーパー301条だったか?で脅しては対日個別交渉で事実上の輸入制限・・電気・半導体その他日本の世界競争力の産業を次々と潰して来ました。
https://kotobank.jp/wordからの引用です。
「スーパー301条とはアメリカの包括通商法の条項のひとつで、不公正な貿易への対処、報復を目的としたもので、1974年に定められた通商法301条を強化するものとして、88年に成立した。規定は次の2つ。#不公正な貿易慣行、過剰な関税障壁を有する国を通商代表部(USTR)が特定し、撤廃を求めて交渉する。#それでも改められない場合には、その国からの輸入品に対する関税を引き上げるなどの報復措置をとる。スーパー301条は88年当時、米国との輸出入が特に不均衡であった日本を主な適用対象として規定されたといわれている。 」
要するに一定の貿易黒字があると,問答無用式に不公正取引国と認定する仕組みです。
最近・それほど古いことではなく不公正貿易監視国リストに日本を指定したと報道されたばかりです。
http://mainichi.jp/articles/20160430/k00/00e/020/155000c
「米財務省は、相手国の為替政策が不公正でないか判断するため、対米貿易黒字が200億ドル以上▽経常黒字が国内総生産(GDP)比3%超▽年間の為替介入規模がGDP比2%超−−の三つの基準を新たに設定。日本は貿易・経常黒字の2項目に該当した。日本のほか、中国、韓国、台湾、ドイツの4カ国・地域も対象に指定された。監視国リストの指定は今回が初めて。」
上記のように数値目標で監視するぞ!と脅し、その先にはス−パー301条の適用があるぞ!と予め脅すやり方です。
戦前の大恐慌のときでも同じでしたが,日本は制裁されると引っ込むしかない弱いクニですから、戦後も良いように叩かれ続けられました。
貿易黒字や経常黒字が大きいと何故不公正取引国になるのか・・その基準で言えば、産業革命の先行者利益によるイギリスの世界制覇も戦後アメリカの突出して貿易黒字による世界制覇も皆不公正な取引の結果になります。
不公正取引とは,賄賂等不純要素によって左右されるものであって,商品・サービスが優れていて競争に勝っているのは不公正ではありません・・子供でも分るる論理・基準ですが,アメリカ的単純思考では,結果が一定額以上の黒字だと「不公正」と言うことになるようです。
結果の修正は変動相場制下の,為替相場等で調整すると言うのが・・中国の場合まだ為替取引の自由が認められない固定相場=政府指定ですから、貿易黒字を簡単操作出来ますが・・自由取引圏では長年の智恵であり国際合意です。
頭を使わなくて簡単で便利と言えばそうですが,(自分が黒字のときには自由貿易を言い募っていて負けそうになると)こう言う単細胞的正義の基準で国際社会を振り回すのでは世界中が不幸です。
いろんな分野で無茶苦茶過ぎる基準を振り回して来たので公正にやってくれる信用がない結果、圧倒的武力・国力がなくなると、世界の警察官・・調整役を張れくなった原因です。
トランプ氏は,中国相手には報復合戦に陥るのが怖くて多分制裁は出来ない・・世界で最も弱い・何の報復も出来ない・・それでいて貿易黒字の大きい日本を叩くのが安直で理にかなっています。
日本は原油鉄鉱石その他資源を大量輸入している赤字分を、対米工業製品黒字でファイナンスしている関係ですから,対米構造的黒字国です。
貿易黒字の批判・・日本叩きの攻撃を避けるために東南アジア〜中国・最近はメキシコ経由で迂回輸出でカバーしている日本です。
他方でアメリカ製造業は日本へ殆ど進出していないので、アメリカが輸入禁止してもアメリカ国内企業は困らないし,日本へ輸出しているのは農産物・食糧中心(今後シェ−ルガス系が加わりますが)で日本は報復的輸入規制できませんので、アメリカには何らの痛みもない一方的関係です。
上記のとおり太平洋戦争の原因になった高率関税に対しても同じで日本はアメリカに何の報復も出来ませんでした・・報復しなければ安全ではなく,報復の心配がないとなれば遠慮なく押し込んで来るのが世界政治です。
ちなみにアメリカの広島・長崎への原爆投下の決断は,最早日本にはアメリカ本土爆撃の報復能力がないと見極めたので決断したと言われています。
戦争終結を早めるためではなく,日本の抵抗力がなくなるのを待っていたのです。
反撃力こそが抑止効果の基礎であること・・非武装平和論の空想・欺瞞性が明らかでしょう。
アメリカの正義に基準は、相手が弱ければ不正と決めつけて「制裁する」強ければ黙っている・・単純基準です。
この二重基準を知っている北朝鮮は何が何でも核武装に走ったり理由ですし,経済規模や武力の大きい中国政府がサイバーテロその他どれほど不正があっても何もしません。
経済非合理な関係・・報復力が全くないのに日本が最近対米黒字を大目に見てもらっていたのは,アメリカの世界的ヘゲモニー維持に協力する役割を忠実に果たして来たコトに対する恩賞に過ぎません。
トランプ氏が「世界でのヘゲモニーはいらない・・各地域大国が好き勝手にやってくれれば良い」と言い出せば日本の貢献は不要になります。
これがアメリカが明治維新以来長年日本を敵視する基本原理・・ロシアの南下政策を阻止する限度で利用価値があり,日露戦争で目的を達すると用済みとなり,戦後は・ソ連の国際赤化政策阻止など・・ソ連崩壊後日本の利用価値がなくなるとすぐに米中結託で日本除外工作が盛んになるなど・・日本と仲良くしていても経済的に何も得をしていない原理が基礎にあります。
現在も、ロシア、中国敵視をやめるとなれば,(アメリカにとって日本への輸出は食糧等中心で断られる心配がないし,中国市場の方が魅力がある点は戦争前と変わりません)日本利用価値が激減しますし,ロシア・中国にとっても日本利用価値が下がります。
これがトランプ氏当選後、直ぐに対日態度を変えたプーチン氏の姿です。
上記は分りよく単純化して書いているだけであって国際政治はもっと「複雑怪奇」です。
国際政治は2国間の単線的利害調整だけでは解決出来ません。

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