自治体の拒否権10(自衛隊出動要請1)

アメリカの大洪水被害などでは州兵が先ず出動しそれでも間に合わない場合、州知事の要請で連邦軍が出動する仕組みらしいですが、これはこれまで書いているように元々は独立主権国連合の本質・歴史を前提にしている制度です。
各州が自前の軍を保持している以上は当たり前のことで、県単位の軍隊などを有していない日本に当てはめて主張すること自体が非常識と言うか、牽強付会のそしりを免れないでしょう。
独立国同士では・・日米安保条約があっても目の前で攻撃されている緊急的応援を出来ても、大規模出動するには日本政府の応援依頼があってから出動する仕組みになっているのと同じです。
日本の都道府県は元々独立国が日本政府樹立に参加したのではなく、政府が統治の都合で各地を線引きしたものに過ぎませんから、これにアメリカの州の権限を当てはめるのは土台無理です。
学校で「廃藩置県」と習うので、藩がそのまま県になった印象を持っている人が多いと思いますが、例えば千葉県でも最初に小さな県がいくつも作られて、その後組わせを変えたりして、漸く今の県域が出来上がったことを明治の地方制度のテーマで紹介したことがあります。
アメリから日本独立回復後もアメリカ法の貫徹を目指す勢力が強かった結果、大災害が起きても県知事の要請がないと自衛隊が救援出動出来ない現行法が出来上がっているばかりか,法の運用においても出来るだけ自衛隊を出動させない思想が強固でした。
以下アメリカの州と県とが性質が違う矛盾が露呈した・・神戸大震災の経験を紹介して問題点を見て行きます。
神戸(阪神淡路)大震災では、兵庫県知事による自衛隊出動要請が遅過ぎた批判がありました。
自衛隊法では、以下のとおり知事要請が(原則として)必須要件になっています。
(要請による治安出動)
自衛隊法(昭和二十九年六月九日法律第百六十五号)
(災害派遣)
第八十三条  都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
2 防衛大臣又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
3  庁舎、営舎その他の防衛省の施設又はこれらの近傍に火災その他の災害が発生した場合においては、部隊等の長は、部隊等を派遣することができる。
4  第一項の要請の手続は、政令で定める。
要請が遅かったか早いかの議論よりも、自治体の要請がないと自衛隊が自発的に動けないシステム・現行法制度や安易に?依頼すると政治責任追及を受ける雰囲気造りをして来たこと自体を問題にすべきです。
明日のコラムで当日の時系列(ネット引用ですので正確かどうか不明)を紹介しますが、これによると、「06:30 百里基地、偵察のためRF4発進検討するも断念。4ヶ月前北海道東方沖地震でRF4が墜落、社会党の追及で当時の指揮官が更迭されたため。」
上記は、特定立場の解説かも知れませんが、神戸震災当時の知事判断には、当時の社会党政権による自衛活用に対する抑制姿勢の影響があったように見えます。
ところで、自衛隊の自発的出動を認めるとどう言うマイナスがあるのかと言う点ですが、自衛隊が自発的に災害出動し、あるいは知事判断が過大過ぎて災害規模が想定よりも小さかったとしても、どのような社会的損害を心配して厳重な縛りを掛けているのかすら分りません。
火災事故で数台の消防車で足りそうな小さなボヤ・・路地周辺に10数台も集まっているような素人から見れば、無駄そうな事例が時おり見かけますが・・。
消防車が多過ぎてもコストの工夫論だけであって、政治責任まで起きそうもないように思えますが・・・。
民主的控制が必要としても、事後的検証システムを整えておく方が合理的です
災害救援のためでも他国軍が勝手に入って来るのは絶対に許されないのは分りますが、自国軍による救援活動まで何故厳重に縛り付ける必要があるのかの疑問ですが、・・自衛隊を敵視する基礎的思想が蔓延している中で法制度が出来上がってしまったのではないでしょうか?
政府や知事の危機管理能力をマスコミが批判する傾向がありますが、政治家は危機管理の専門家ではありませんし自治体職員も日常業務があって、危機管理のために常時情勢監視する仕組みではありません。
各企業の防災管理体制も同じで、支店長をトップに、(兼任)◯◯と言うシステムが普通で、専門職が常駐する仕組みではありません。
防災担当県職員も被災地域に居住している限り一般市民同様の被災者であって独自の情報源などありませんから、瞬時決断を要する危機発生時には彼らの登庁(登庁経路の多くが寸断されています)を待って,漸く一人二人登庁しても彼らが独自情報を持っていない(せいぜい登庁途上の被害目撃情報くらい)・緊急判断するコト自体無理があります。
緊急事態即応には、24時間態勢で寸秒の切れ目もなく危機管理情報を把握している危機管理の専門組織・・(即時に偵察機を飛ばすなどの即応体制のある)軍や警察の瞬発的決断に頼るしかないのではないでしょうか?
神戸の大震災では、地震発生後13時間以上も経過して漸く自衛隊出動依頼していますが、航空自衛隊出動依頼がさらに1時間以上遅れています。
家屋・電柱倒壊などで陸路からの救援が難しい状態が早くから報道動画等で判断出来た筈ですが、知事としては部局を経た報告を待っていたのかもしません。
(自衛隊が早くから偵察機を飛ばすなど情勢分析が進んでいたのに対して、(行政府・知事にはそう言う手段がないでしょう)
空からの救援としてどう言うことが出来るかなどの技術的判断まで、専門外の知事が何故判断する必要があるのかも疑問です。
他方自衛隊の緊急対応を見ると、神戸震災では、「06:35 第三十六普通科連隊(伊丹)、倒壊した阪急伊丹駅へ伊丹署の要請で先遣隊出動」とあるように「05:46 地震発生」発生後1時間以内に対応しています。
これは自衛隊法83条3項で駐屯地の近傍には自発的に出動出来る条項を利用したようです。
それ以上の大規模出動には知事の依頼がなくて出動が遅れてしまったと言う流れです。
上記のとおり、ソモソモ何のために自発的緊急出動が原則許されないのか?自民党との連立政権成立までの社会党が、自衛隊違憲論を強硬に主張していたことが原因になっていることが明らかです。
大震災連続の結果、この種ドグマは次第に勢いを失っています・・ドグマに固執する(確かな野党)社会党消滅→社民党支持層激減の背景です。
私たち世代にとっては戦後約50年間2大政党の1つであった社会党の党是は誰もが知っている常識ですが、次世代では最早歴史の一部になっていて知らない方もいると思いますので、念のため当時の社会党の憲法意識(非武装平和論・自衛隊は違憲存在と言うドグマ)を紹介しておきます。
以下によると連立参加まで社会党は安保廃止・自衛隊違憲論であったことが分るでしょう。
村山総理に関するウイキペデイアの記事の一部です。
日米安保の維持
1994年7月20日、第130回国会での所信表明演説にて「自衛隊合憲」、「日米安保堅持」と明言し、それまでの日本社会党の政策を転換し、日米安全保障条約体制を継続することを確認した。
この際、演説用原稿では「日米安全保障体制を維持」となっていたのを、所信表明演説では村山が「日米安全保障体制を堅持」[30][31][32]と読んだことが注目された。
これは村山の出身政党である社会党にとってはコペルニクス的転回であった。トップダウンで決定した背景から独断専行と批判も受けたが、党は追認している。」
政権参加のために社会党は村山総理の意見を仕方なく?追認しましたが、違憲論が党内でなお根強かったことから腫れ物に触るようにしていた最中・神戸地震発生は国会での所信表明後僅か半5ヶ月後のことですから、ためらいがあり出動決断が遅れた原因と見るべきでしょう。

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