弁護士会が自由な政治運動・即ち特定勢力支援活動するために、国家の規制を受けない特権があるのではありません。
弁護士や弁護士会は、人権擁護活動するには国家権力と対峙する必要があるので、その限度で自治権が保障されているだけのことです。
個別の争訟事件を離れてでも、人権擁護するための刑事手続法や刑法の規定の仕方などで意見を言うのは合理的です。
このためは政権と距離を置いた自治権・・自由な観点からの主張や建言が必要なことも確かでしょう。
弁護士は、訴訟手続上、権力と正面から戦う職業であることから、(韓国の産経支局長名誉毀損事件では、韓国弁護士は大統領府の意向と正面から対決する役割になります)権力に刃向かうことを理由に懲戒されたのでは、裁判制度が成り立ちませんから、自治権・身分保障が必須であることは文字どおり近代法の原理ですしその限度で現在の原理でもあるでしょう。
このため、弁護士会に自治があって弁護士の懲戒手続は、全て弁護士会内部で行ない政府は口出し出来ない仕組みです。
弁護士法(昭和二十四年六月十日法律第二百五号)
第八章 懲戒
第一節 懲戒事由及び懲戒権者等
(懲戒事由及び懲戒権者)
第五十六条 弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
2 懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。
ただし直接国民の信任を問うシステムがなく、しかも自治にあぐらをかいて社会意識に反する弁護士の懲戒をしないと、会自体の信用が低下するので、運営は却って難しいものです。
このため懲戒委員会は世間の良識を反映するために、弁護士だけで構成するのではなく、外部委員として学者や現職裁判官や検察官を選任していてその意見を反映する仕組みにしています。
ただし、綱紀・懲戒委員会は弁護士自治・弁護士の信用を守るために個人的な非行を処分するための組織であって、会の政治的意見・行為が会活動の目的から逸脱しているかの基準を判断する委員会ではありません。
ですから、当たり前のことですが、弁護士自治の限界は裁判や懲戒手続に頼るのでなく、政治活動をどこまでやるのが合理的かは、弁護士個々人が考えて行動し会内民主主義の結果意見を反映して正して行くしかない状態です。
「人権擁護と遠く離れた平和のあり方・軍備の程度や、戦わずして異民族支配に入った方が良いかどうかに関して意見を言い、行動するために自治権が保障されているのではない」と言うのも、私個人の意見に過ぎず、これが正しいかについても言論を通じて決めて行くしかないことになります。
何が、どこまでの政治活動が人権擁護と関係し、弁護士会が関与して行くべきかについての限界論は、会員相互の言論で決めて行くべきことであって、外部の裁判所に頼らないだけではなく、内部の懲戒委員会でも同じですが、権力的に決めるべきではありません。
いろんな立場の意見がありますが、どこか外部権威のお墨付きを求めるのではなく、全て会内民主主義によって会行動の限界を決めて行くべきことです。
ただし、これは弁護士会内部の自己満足の問題であって、会内民主主義を尽くした結果であれば、どんな結論を発表し、人権擁護と遠くはなれた行動をしていても国民が支持するかは別問題です。
弁護士会は選挙や市場行動による直接的国民支持のバロメーターがないために、政治家や商人よりも民意に敏感にしていないと、知らぬ間に独善に陥り、国民意思と遊離してしまって取り返しのつかないところまで突き進んでしまう危険があります。