法人税減税1と外資

国内資本で間に合っているときには、法人税率や利子配当課税率をどうするかは国民間でどの階層が国内経費をどの程度分担するかの所得再配分のテーマでした。
国内資本100%の場合、法人税が高いと株式を多く持つ層が損をし、法人税が安いと株式保有者が得するという国内所得移転再配分問題であって、外資が多い場合のような海外資金流出の問題がありません。
外資比率が多くなると法人税を上げるか下げるかの問題は、国内所得再配分問題に留まらず、どの程度まで海外資金流出を許容するかの次元の違った問題になります。
外資中心になると労働分配率も国内所得分配問題から変質し、企業の儲けは国民の儲けと一致しなくなりますし、折角国民が努力して儲けた資金を海外流出するのを許容してまで、外資導入・・誘致競争が必要か否かの議論こそが重要です。
何のために外資に株を買って貰う必要があるかの議論をしないまま、法人税減税を現政権が主張し始めたのは奇異です。
法人税が安いかどうかは企業創設・企業立地には関係がないことを以前書いたことがあります。
日本は今でも資金豊富・・金あまり状態(だからこそ世界一低金利を続けられているの)ですから、本当に企業に魅力があれば外資に買って貰わなくとも国民が買うだけの資金を持っています。
また一般的に先進技術国から後進国への進出の場合、競争相手がないので儲かるに決まっていると言うか、儲けるために進出するのですから、進出国の税率・あるいは本国への利益送金の自由度が重要になります。
それでも後進国の場合技術移転をして貰うメリットや新規雇用創出のメリットがあるので、税優遇措置を講じてでも誘致競争うに励んでいるのです。
日本の場合、逆に海外進出したい企業はあっても、車であれ電子部品・・素材であれ、日本に工場進出してもらって技術移転して欲しくなるような企業が外国にあまりないのですから、この面でも外資導入のために税優遇してまで誘致する必要がありません。
例えばサムスンが日本に研究所設置する場合、日本の技術者引き抜き・・先端技術の吸収が主目的でしょうから、日本にとって歓迎すべきことではありません。
技術の遅れた企業が進出しても負けてしまうので、(例えばトヨタの地元によその国の車産業が工場立地しない筈です・・法人税が高いからではなく、トヨタに競争に負けるからです)先進国への生産施設やサービス業など前向きの進出はあまり考えられません。
工場や店舗進出に当たっては採算ラインに乗るかどうかが先決であって、利益が出てから問題になる税率など、どこの国の企業も進出に当たっては大して問題にしていません。
どちらかと言えば、固定資産税の減免やインフラの整備など自前でやる必要があるのか(・・貧民地域で土地買収からやるのでは、採算が取れないが一定の工場団地が整備されておればコスト計算が割に楽です)地元である程度整備してくれているのかなど採算に乗る状況かどうかが重要チェック項目です。
新規工場やスーパー等海外進出するに際しては、進出して企業として成り立つ・・採算が取れるかどうかが第一の動機・死活的判断基準であって、儲けた後の税率が何%安いかは2の次です。
法人税率が気になるのは一定水準儲けが出るようになった企業を買収したり、株式の一部を取得するときに配当がどの程度見込めるかの判断基準としては最重要ですが、新規投資(工場進出等現物投資)する基準にはならないとは言えないまでも、新規投資の判断順位としては後順位です。
個人で考えれば、レストラン経営者がもう1店舗どこかへ出店しようかというとき、あるいは独立開業するときには税率よりは、店を出して採算取れるかどうかの判断が決め手です。
法人税が高いと企業誘致できないと言うマスコミ報道は、先進技術国である我が国の実態に反していることになります。
法人税を下げることにより、外資誘致できるという論は既存の(赤字企業には法人税がかかりませんので)黒字(優良)企業を外資に買収してもらうために、税率を下げてやる必要があると主張しているのと同義に帰するように思えます。

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