中間層の重要性5(テロ・暴動の基盤3)

中国にとっては持続的外資導入のためには、成長持続が売り物ですから、これまで人口オーナス論に見向きもしなかったし、その意を受けた日本マスコミ・マスコミに出る学者も一言も触れない状態でした。
ところが、中国政府は方針を正反対にしてイキナリ労働力減少数を多めに(労働力人口は従来15〜60歳以下人口統計だったのを59才に引き下げてまで人口減を多めに)発表したので、慌てて1月19日の日経新聞朝刊で報じざるを得なかったように見えます。
翌20日には19日の大きな記事に続けて社説でまで書くようになった慌てぶりは異常です。
中国政府の意を受けて中国市場の際限ない成長を宣伝していた日本マスコミ界にとって、中国政府自身によるこのような発表は日本の頭越しに米中和解したのと同様の衝撃だったでしょう。
労働力人口減のマイナス影響論を逆手に取って従来基準よりもさらに1年分労働期間を減らして計算して減った人口を多めにイキナリ発表した政府の意図は何でしょうか?
失業増大による社会不安拡大の憶測否定・・「職場が減っても人口がこんなに減っているから大丈夫」というアナウンスがその目的でしょう。
そこまでしなければならないほど、対日暴動時点よりも更に失業増大が進んで余程追いつめられていると見るべきです。
習近平氏がトップ就任最初の訪問地に広東や深圳方面を選んだことをもって、日本マスコミは鄧小平の南方講話を引いて路線継続意思表示と賛美していましたが、実は当地では工場閉鎖続出で大変なことになっていたからではないでしょうか?
19日の報道ではこの1年で365万人程労働人口が減ったと言うのですが、確かに5000人規模の(日本では)大規模工場が10個や20〜30個バタバタと閉鎖してもそれだけ労働者が減っていれば数字上では関係ないと言えば言えます。
しかし、まだまだ工場労働に押し寄せる貧窮農民層からの圧力が毎年何千万とある状態ですから、全国で労働力人口が数字上300万や400万人減ってもその圧力が減った訳ではありません。
まして20日にテロや暴動の供給源について書いたように、もともとの農民が苦しくなっても食えなくなるまで命を捨ててまでテロや暴動に参加しません。
(新規参入者である農民工が雇ってくれなければ田舎で従来どおり貧しく生活しているだけでテロリストにはなりません)
ところが、一旦都会に出てしまった労働者が職を失うと帰る家もなく(19日に書いたとおり郷里には受け皿がありません)先進国のようにセーフティーネットの未成熟な中国ではマトモに食いはぐれます。
毎年何千万と発生していた新規参入者が365万へったと言うだけで、既存労働者の50万〜100万単位の失業がそのままになっているのでは大変です。
中国の場合新規参入仕損ないも実は大変なことです。
・・田舎からギリギリの仕送りで卒業した大卒が就職出来なくとも郷里に帰れないのは同じで、ネズミ族、あり族になっているのが有名です。
日本で言えば、仮に50万人失業者を出すにしても中高年者を失業させると影響が大ききいので、新規参入を抑える(新卒の就職難)政策をずっと採用してきました。
日本では親世代が豊かなので就職出来ない新卒・若者は親の家にとどまることが多いので、親に寄生している限り社会不安が起きません(草食化するばかりです)が、中国では深圳特区等早くから開けた工業地域に多い既存労働者(中高年齢層)の失業や大卒の就職率低下は、その受け皿がない分深刻な社会問題になっている筈です。
中国では親世代が貧窮状態ですから、中高年齢層が失業したり田舎から出て来た大卒が就職出来ないときに今更極貧の郷里に帰れませんので、砂漠で路頭に迷っているテロリスト供給源と同じ状態に陥りますので、(根なし草としては砂漠の民と同じです)数字のゴロ合わせでは解決しない社会不安・・暴動予備軍が生じます。
北アフリカ諸国では、近代化以前の裸足で槍をもって獲物を追っていた生活に戻れないので、失業or就職難→テロリスト供給源・予備軍になり勝ちなのと同じです。
新興国や産油国では半端な近代化が、もともとの原始生活に後戻り出来なくしてしまったから、成人しても職がなかったり一旦職を失うと命がけにならざるを得なくなっているのです。
中国の若者が高度産業の受け皿もないのに大量に高学歴化してしまい、行く場所を失ってアリ族に転落している・・今更内陸の農家に戻れないのも同じ構図です。
GDP統計同様に数字発表の操作が中国では大好きですが、失業による困窮度は国民が肌で知っていることですから、この発表が外国(中国べったりの日本向け)メディア対策にはなっても、現実に失業している国民の不満がなくなる訳ではありません。
折しもネット上では、中国のあちこちで大型商店の突然の廃業・閉店がニュースで流れていますが、失業増大で消費が落ち込み始めたことが分ります。
中国政府は本当は困っているのでしょうが、実態に合っていなくとも政府に都合の良い数字を発表しておくしかなくなったのでしょう。
ソ連時代もそうでしたが、共産党政権では、実態にあっていようがいまいが、計画経済・官僚の書面上の辻褄だけが尊重される伝統が開放・自由主義経済化?した現在でもそのまま踏襲されています。
情報規制しているから、裸の王様の寓話が(国民は信じていなくとも)そのまま、まかり通っていることになっているのでしょう。
(したたかな中国国民は信じていないので)虚偽宣伝報道がそのまま、まかり通ってるのは、これをそのまま有り難がって報道してくれる・・洗脳される日本人だけかも知れません・・。

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