最低賃金制度と社会保障1

近年の最低賃金等の引き揚げ政策は、生活保護費より低いのはおかしいという変な理屈によるものです。
元々生活保護受給者=無収入に限定したものではなく働いても文化的最低生活を営むに足りる収入を得られない人のためにあるものであって、生活保護受給=無収入とは限りません。
中には、少しでも働いたらその分差し引かれるのは損だから働かないというモラルハザードが起きつつありますが、モラルハザードを起こしている人たちを基準にその人たちの受給額より給与が低いと言う基準で政策決定の議論するのは間違いです。
最低賃金を引き上げると今度は生活保護基準が低すぎるから引き上げろとなってお互いを基準にしていると同義反復的・循環論法に陥ってしまいます。
生活保護基準は国力のレベルで判断するべきであって、この基準で支給して行って10〜20年は国際収支黒字を維持出来るかのマクロ基準で考えるべき事柄です。
マトモに働いても上記基準である生活保護費に届かない人は、その差額分の生活保護を受ければいいのであって、働いた稼ぎが生活保護の満額支給より低いのはおかしいから最低賃金を生活保護水準支給額よりも上げろという一見尤もらしい議論自体おかしい論理建てであることが分ります。
こうした倒錯した議論の結果企業にその差額を強制的に賃金として払わせるのは、論理的ではありません。
企業は飽くまで労働の対価としての賃金を払えば良いのが原則です。
正当な労働対価とは何かですが、それは国の場合・生活保護基準では、国際収支が指標になるべきですし、企業の場合各企業収益を基準に企業ごとに違いがあってしかるべきです。
他社よりも収益の低い企業は低い労賃しか払えないし、労働者はより待遇の良い企業を選別するので生産性の低い企業は淘汰されて行きます。
最低賃金制度は世界中に存在する制度ですが、世界中にあるからその存在自体が正しいとは限りません。
世界中が社会保障制度の不備・・政府資金不足を企業に負担させる時代が長かったに過ぎません。
我が国の場合世界最大の順債権国になっていて、資金不足国ではなくなっているのですから、国債で賄えるようになっているのですから各種社会保障資金を企業負担をやめて行くべきです。
労働能力以上の賃金支払強制=一定水準以上の生活保障を要求するのは社会保障費を、賃金という名目で企業負担にしているものですから、企業の方で嫌になってしまいます。
不合理な負担をさせていると(少子化による労働力不足によるのではなく)企業は不合理な負担から逃げたくなるのは当然ですから、海外展開を加速して行きギリシャ・スペイン等のように大変なことになってしまうでしょう。
10月3日の日経新聞朝刊第1面にトヨタはカローラの全量を海外生産に移行すると大きく出ていました。
最低賃金はそのままにして、(本来は最低賃金制度自体を廃止・・企業負担にしないで)生活費不足分は社会保障にして行く・・例えば保育料・授業料無償化など生活費の多くを公的負担にして行く・・バラマキと言われる施策が意外に有効です。
大衆迎合のためのバラマキは論外ですが、経済対策(短期的内需拡大という視点ではなく、国際競争力維持のためとしては)バラマキは有効です。
年金赤字の批判でも書きましたが、本来社会保障で賄うべきところを国民の掛け金である年金支給に食い込ませるなど社会保障施策がいろんな分野に浸食し過ぎています。
賃金は賃金のルールに任せて、それで生活が苦しくなる人に対しては一定の社会保障をすれば良い筈です。
多種多様な生活費の半分ないし3分の2(今でも医療費は3割負担ですがこうした分野を増やして行く)が公的負担になれば、企業の負担する人件費負担は軽くて済みます。
公的経費増分をどのようにして賄うかですが、これを増税したのでは結局は企業負担が増えて同じことです。
わが国は国際収支黒字国ですから、当面は社会保障政策分は国債発行で賄えば良いでしょう。
韓国が税で電気代を政策的に低く抑えている(日本の3分の1とも報道されています)のと同様に、法人税も上げないで社会保障負担的分は国債で賄って行くのが、合理的です。
一家で言えば、過去の貯蓄による配当収入(家賃収入その他)があれば、給与が普通の人の半分でも普通の生活が出来ますので、半分の賃金で働いてもやって行けます。
高齢者がこの原理で収入が殆どなくとも自宅あり、年金あり、一定の貯蓄ありで悠々と生きているのと同じです。
(高齢者は表向き収入が低くとも豊かですから、高齢社会では現役収入を基準にするジニ係数など噴飯ものであることを以前書きました)
我が国は国家全体としては貯蓄過剰(世界最大の純債権国です)ですから、この原理を若者にも応用したら良いのです。
そんなことをしたら若者が怠けてしまうと心配する方がいるでしょうが、(実際には親に自宅ローンの一部を助けてもらったり子供の学費の援助を受けている次世代がまじめに働く気持ちがなくなる訳ではありません)そんな空想みたいな心配よりも高額賃金を強制することによって企業が海外に逃げて行き、失業者ばかり増やす方が若者の精神その他に対する危険が大きくなります。
安い給与でも全員が働けるようにした方が健全です。

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