国債発行と金融機関救済2

国債残高の累増問題は財政赤字の問題ではなく、もしも少しでも金利が上がればたちどころに金融機関の大幅赤字発生・・再び金融危機が来るリスクにマスコミが怯えている事によると思われます。
昨年は金利がじりじりと下がったので金融機関は債券評価益が出て、大幅黒字の好調決算でしたが、もしも金利上昇局面が来るとこれが逆転する心配です。
インフレ期待の誤り(インフレは国民生活に害がある外、金利の上げ下げでどうなるものでもなく結果は国際収支→為替相場=国力次第にかかっていること)をAug 11, 2012「健全財政論12(貨幣価値の維持6)」あたりまで連載しました。
またインフレ懸念が現実的になってくれば、インフレになるのが分っていれば、債券が大幅下落・金利アップしないと誰も買いませんので、結果的に政府が得する前に高金利が先に来てしまうことも書きました。
ところでこの後で例を書きますが、インフレ→金利上昇局面では、金融機関が保有する巨額国債の大幅評価損→金融機関倒産続出になり兼ねないのに、何故インフレを業界が期待しているかと思う方がいるでしょう。
インフレ期待論は、私の意見同様に金利を下げても何をしても、国際収支黒字が続く限り効果がないことを見越した上で、そのように主張さえしていれば、金利下げ政策が是認されることを期待しているのです。
金利が下がりさえすれば、金融機関が座視していてもこの後で書くように巨額評価益が出ることを期待しての議論になります。
政府にとっても金利が下がれば国債評価が上がるので、同じ額面発行でも多くの資金が入ります
タバコの値上げ前の駆け込み需要期待と同様で(その後反動減があります)インフレになる前に一時的評価益が出るのを期待した(駆け込み需要の反動減の怖さは今回のテレビ売れ行き激減で電気業界が実験済みですが、・・そのときのことを考えない)無責任な議論になります。
あるいはインフレ期待をはやして金利下げだけ誘導して評価益だけ得ることが目的で、実際には金利を下げたくらいでは(私が何回も書いているように)インフレになりっこないことを見越しているのかも知れません。
このインフレ期待論のマスコミ合唱に引きずられて日銀が徐々に金利引き下げ・量的緩和をして行ったことは周知のとおりですが、その結果、昨年度国債保有者に巨額評価益が出て、(無能でも誰でももうけが出る仕組みです)銀行経営者にとってはホクホク状態です。
しかし、日本国債は世界最低金利更新中で、これ以上下がる見込みが少なくて、あっても残り僅かでその内に底を打つしかありません。
今後はジリジリと金利が上がるしかないとすれば、金融機関にとって今後評価損が恒常的に発生することになって行きます。
分り易い数字で例を単純化して(中間利息控除せずに)書くと、額面100万円の10年国債を90万円で買うと(複利計算しない単利で仮定する)と年1%の利回りです。(実際にはもっと複雑計算です)
金利相場が2%に上がると80円で買わないと2%になりませんから、既発債(金融機関が保有している国債その他債券)の相場が同じ利回り・・残期間によりますが買ったばかりのものですと約80円まで下がって行きます。
1000兆円の95%が国内保有ですからその1割でも評価が下がると大変なことです。
(実際にはイキナリ一%も上がることはないでしょうが、スペインの例を見ても分るように上昇局面が来ると一年間でそのくらいの上昇は簡単です。)
昨年に限らずここ何十年も、政府と金融機関は二人三脚でこの逆バージョン(一%金利下げで一割の評価益)で金利引き下げを繰り返して良い思いをして来たのです。
実際には下がり過ぎていて今では0、何%の小刻み金利下げの連続しか出来ないのですが、それでも元本が巨額ですから大変な利益でした。
もうそろそろ金利下げも限界ですので、今後は金利上昇しかないとすれば金融機関と政府は大変なことになります。
このリスクを軽減するには、政府の財政赤字解消→発行量を増税によって減らせという合唱になっているのでしょうが、発行量に問題があるのではなく、(政府がいくら発行しようとも)銀行が自ら顧客・資金運用方法を開拓して国債の購入比率を引き下げて行けばいいし、それしか解決方法はありません。
資金運用能力がないままで発行量だけ減らすと、銀行・その他金融機関は預金その他仕入れ資金の運用先がなくなって倒産してしまうか、受け入れ停止または預かり料を取る(マイナス金利)しかなくなります。
もしもマイナス金利となれば金融仲介機能がなくなって、倉庫・保管業者になったことになります。
今は資金の運用先がなくて困って買っているのですから、発行量から手をつける論法は本末転倒です。
自分(銀行)が仕入れた資金の自主運用努力しないで、発行する政府が悪いという意見は、泥棒が自分が悪いのではなく、品物が置いてあった方が悪いと開き直っているようなものです。

©2002-2016 稲垣法律事務所 All Right Reserved. ©Designed By Pear Computing LLC