マスコミを中心とするデフレ脱却論、インフレ期待論の合唱に応えて日銀による超低金利・「量的緩和」が長年実施されていますが、いくらゼロ金利にしても量的緩和をしても需要がないと金融仲介機能が働かず乗数効果がないのでどうにもならないのが現状です。
April 28, 2012「税金と国債の違い1)で書きましたが、リーマンショックまでは国際経済界では貨幣が発行されれば銀行の信用創造機能によって1万円札が何回も回転することによって約50倍に広がって利用されていました。
ところがずっと前から我が国に限っては、銀行の金融仲介・信用創造機能が落ちて来て発行した紙幣の大部分が(比喩的表現ですが・・)翌日には国債購入資金(創造機能ゼロ)になるようでは、信用創造機能が1〜2倍にしかなっていません。
仮に紙幣量を2倍に量的緩和をしても、50分の1に収縮したマネタリーベースが50分の1補充されるだけですから経済インパクトとしては殆ど意味がありません。
紙幣を2倍にすれば物価が2倍になるという旧来の理論が仮に今でも正しいとしても50倍利用されていたところから30倍〜20倍に収縮(収縮率は比喩的に書いているだけでデータに基づくものではありません)した状況で、元になる紙幣発行量(原料)を2倍にする=50分の1の原料だけ供給してもどうなる筈もありません。
(まして先進国・飽食の国民は紙幣供給が2倍になっても牛乳やアイスクリーム消費をこれ以上増やさない・1昨年地デジ移行で一度買ってしまったテレビをもう一度買わないばかりか、不足があればいくらで増産出来る消費材・大量生産社会になっていること、更には輸入品が穴埋めするので閉鎖社会の理論は妥当しなくなっていることを12日に書きました)
量的緩和・紙幣増発をすればそれに比例して貨幣価値が下がる・同率で物価が上がるという経済学者の理論通りになるならば、国債保有者あるいは今後の購入者にとっては死活問題ですから、インフレ目的で低金利・量的緩和を始めると報道しただけで将来の保有国債値下がりを見越しての売りが殺到し、新たな買いが成り立たなくなってしまいます。
インフレが進行する前からインフレになる見通しだけで予め新規国債引き受けがガタベリ・金利急上昇することになるでしょうが、量的緩和を始めてから何年もたつのに実際には国債は値下がりするどころか欧州危機後値上がりして(金利低下が更に進んで)います。
政府の思惑だけで経済実態に反してインフレを実現する能力が政府・日銀に仮にあるとしても、インフレ目標政策・・インフレを実現して国債価値を仮に1割減〜半額に評価減する施策を実施しながら、「これから大幅に国債相場を下げるけれど、手持ち国債を売らないで保有したままにしてくれ、今の高値でもっと買ってくれ」という都合の良い政策は実際には実行出来ません。
もしもそんなアナウンスで実施したらインフレの効果が出る前に、国債が大暴落になるでしょう。
実務の世界では銀行の信用創造機能喪失によって、紙幣の信用収縮中に原料の紙幣を仮に2〜3倍刷っても従来の50倍から20〜30倍(縮小率がはっきりしませんので比喩的表現です)に収縮している現状では物価上昇効果がまるでないことを国民全部が先刻承知ですから、日銀による量的緩和・国債引き受けを誰も恐れず国債や公社債売却に殺到しないのです。
量的緩和や超低金利政策が何の効果も出(政府には経済実態に反した政策をする能力が)ない・・無駄・効果のないことをやっているのをみんなが知ってるので、市場の反撃を受けずに政府が助かっているパラドックスです。
(中央銀行の役割は終わったと書いてきましたが、量的緩和や金利政策は日銀政策委員やエコノミストのお遊びの域を出ませんので、経済実務界では誰も相手にしていない証拠です)
今回の増税論の論拠に1000兆円もの国債があると、もし将来金利上昇になったら大変なことになるという意見がマスコミを支配していますが、国際収支黒字を維持出来ている限り黒字=資金余剰状態・・すなわち借りたい人が少なくて貸したい人が多いのですから、金利が自然(政府が上げたくとも上げられないことを昨日書きました)に上がることはあり得ません。
要は日本経済が破綻して大変なことになるか否かは、国際収支黒字を維持できるかどうかにかかっているのであって国債残高の量には関係のない話をあえてごっちゃにして国民に不安感を抱かせているのです。
心配すべきは国債発行残高の問題ではなく、繰り返しますが国際収支の結果次第です。
マスコミを覆うインフレ期待論・あるいは円安期待の結果が我が国でもしも実現するときを想定してみると、国際収支赤字(長期赤字継続で黒字の蓄積を食いつぶしたとき)が長期間連続したときしかないでしょう。
(高度成長期も物価上昇が続きましたが、このときはまだ我が国は十分豊かになっていなくてあれも欲しいこれも欲しい時代で飽食に至っていなかったからです)
長期国際収支赤字連続が実現したときには、とどまるところのない円安が始まり輸入物価の持続的上昇→インフレが来るし、国際収支赤字=資金不足状態ですから日銀が金利引き締めをしなくとも資金需要が超過しているので自然に金利が上がって、国債価格も暴落するし、日本経済にとって大変な事態になります。
国民はギリシャのように消費抑制で対応するしかない・・耐乏・緊縮生活が到来します。
財界人やエコノミストが頻りに訴えるデフレ脱却、インフレ目標・期待論は、何を期待していることになるのか、結果的に日本亡国・衰退を期待しているとしか考えられない、無責任・無茶苦茶な意見であることをFebruary 21, 2012為替相場と物価変動2(金融政策の限界1)前後で紹介しました。
繰り返しますが、デフレが続く=持続的円高によって持続的に輸入品価格が下がっていることですが、これは国力充実・国力伸張継続中の証で目出たいこと限りないことです。
失われた10年とか20年とか事実無根のデマをマスコミが流していますが、その国の通貨の評価こそが国力に対する諸外国の評価の動かぬ証拠であって、それ以上のことはありません。
国の評価が上がればその国の通貨が持続的に上がるのであって、そんな目出たいことをマスコミが何故目の敵にしているのか理解不能です。
昨年の大震災を契機に貿易黒字が縮小して逆に赤字になるなどで、日本経済に黄信号がともると、円高傾向が緩みひいては円安に振れ始めてその分いくらか物価が(電力料金を筆頭に)上がり始めます。
デフレ−ターが下がったとマスコミが喜ぶ記事が出るのですが、大局的に見ればニッポンの体力が下がるのを喜んでいるかのような変な構図です。
国債の国際化や株式の国際化(外国人に株を保有して貰って日本に何のメリットがあるのか・・例えばトヨタの株の9割を外国人が保有して日本のためになるの?)など、いろんな報道を見ても日本にとってマイナスになるようなことばかり推奨するマスコミは、もしかして外国人が牛耳っているのじゃないかと心配したくなります。