円安に誘導出来て物価が上昇すれば、実質賃金が下がるので政府も経営者も何の努力も要らずすべてが簡単ですが、経常収支黒字を累積しつつ(少しでも貿易赤字になると大騒ぎしています・・)円安になるのを期待するのは論理的に無理があることを繰り返し書いて来たとおりです。
経済の自然の流れに逆らって無理を通して来たのが超低金利による円安誘導でしたが、リーマンショック以降先進国全体でほぼ似たような低金利政策になるとつっかえ棒がなくなったダムみたいなものです。
円キャリー取引で誤摩化して来た溜まりに溜まった円上げ圧力が一気に押し寄せたので、その勢いで均衡点をあっさり乗り越えた相場になってしまい、8〜90円前後ならまだまだやれる産業まで足をすくわれる結果になってしまいました。
自然の流れをねじ曲げるといつかはその無理が出るので、よほどの成算がないと経済の流れを政治でねじ曲げるのは却って危険です。
経済原理に反した政策は臨時短期間の激変緩和策としてならば意味がありますが、長期化すると却ってその反動が大きくなり過ぎます。
この点は臨時的な不況対策としての補助金も同様で補助金が恒常化すると退場すべき企業が何時までも温存されて結局国富の食いつぶしになります。
雇用調整助成金が見直しの方向になってきましたが、生産性の低い業界で助成金がある為に人材を抱え込んだままにすると活力のある必要な分野に人材の移動が行われなくなる弊害が目立って来たからです。
新自由主義非難・・政府の関与強化を求める思想や論者は、出発点であるグローバル化自体・・国際的な賃金の平準化の流れを批判しているならば一貫します。
しかし、この種批判論者の多くは一方では世界的な南北(賃金・生活水準)格差の解消・・人権・人道主義者でもあるのです。
同じものを作っていて生産性が同じならば、世界中の賃金を平準化することは人道的にも正しいことですが、これを日本の賃金・生活水準を下げずに実現するには中国やミャンマーの賃金を日本と同じ高賃金にするしかありません。
高賃金・高生活水準にするには彼らの生産・輸出を増やす・・日本からの輸出を減らす・・失業の拡大または賃金低下しかないので日本の生活水準が下がらざるを得ません。
現状の貿易黒字を日本が維持しながらミャンマー、アフリカ諸国の人件費を上げるには、日本での高度なインフレ・・超円安を期待するしかありませんが黒字のまま円安を期待するのは無い物ねだりです。
新自由主義批判論はグローバル化が悪いと言う意見だと思いますが、アメリカの通商法による理不尽な日本叩きによって、迂回輸出→結果的に新興国の離陸が始まり、グローバル化の流れは押しとどめられない奔流となってしまいました。
欧米諸国は自分たちが植民地支配で甘い汁を吸いながら、日本の植民地支配だけを非難して戦争を仕掛けた結果、戦後世界中で植民地独立運動になってしまったのと同じ轍を踏んでいることになります。
グローバル化進展の結果、世界中で賃金・生活水準平準化が進みつつあるのは、彼ら人権活動家の言う人類愛・・本来の正義に合致しています。
新自由主義批判論者も今更グローバル化の流れを間違いだとは言えないでしょう。
グローバル化進展を認め・世界中の生活水準の平準化を求めておきながら、日本人にだけ国際水準以上の賃金を従来どおり維持させろと言うのは矛盾です。
最貧国では学校の校舎もないのでそこへ援助に行っている・・そこで汗水流して貢献している報道をみたりしますが、こういうことが可能なのは乗り越えられないほどの巨大な経済格差があってこそ成り立つことです。
これらの国の自立を促すには経済力を付けてやることが基本であって、目のくらむような豊かな国の人がおこぼれを持って行って得意になってるの見るのは私には違和感があり、余りよい報道だとは思っていません。
平準化がドンドン進み援助など要らない世界の実現・・上記のような個人プレーで格好付けているよりはずっと正義に近いと思います。
若干の凸凹があってもおおむね平準化した世界が実現すれば、日本の比較高賃金は中国や最貧国などと平準化するために下がって行くしかありません。
後進国・中進国・最貧国の上昇に合わせて生活水準を相対的に引き下げて行くしかないとすれば、「その方策や如何に?」が我が国の主要テーマです。
絶対的水準の引き下げはきつ過ぎるので、考えられる方策としては中国等が年間10%前後引き上げるとしたきに我が国が2〜3%しか上がらないなどの形で差が縮まって行くこと・・ソフトランデイングしかないでしょう。