貿易収支の均衡2(資源投資)

海外投資にも、商工業関連の投資だけではなく、資源採掘権などへの投資もあるのですが、この分野では我が国ではまだ始まったばかりです。
投資とはまさにこうした超長期の採掘に投資して、リスクを分担することですが、資源関連は((試掘であれ・・)採掘を始めるには巨額資金がかかりますが、「山師」というほどで掘ってみないと中るかどうか分らないすごいリスクのある投資です。
日本で世上言われている投資家とは殆ど株の上下に期待して投機している人を言うので、本当の投資家が育っていなかったのです。
機関投資家などと言っても、寝ている間のニューヨークの相場の動きを調べて今朝の売り買いを決めているような人を一般に言っています。
彼らは投機屋と言うべきでしょう。
日本で資源関連に積極的に投資して来たのは、機関投資家ではなく、三菱商事、三井物産など商事会社でした。
繊維系企業の変身成功の例として東レやクラレを正月に紹介しましたが、商事会社も従来のように口利き料(口銭)で生き残るのが難しくなったことによる大変身の1つの例です。
商事系企業は資源に限らずいろんなプロジェクトのまとめ役として世界中で活躍しています。
勿論変身成功せずに消えて行った商事会社も、有名な安宅産業倒産(石油精製業への進出失敗)だけでなく一杯あります。
今のところ資源関連投資は日本の黒字蓄積による円高解消に資する上に、無資源国の弱みを緩和出来るなど今のところ良いところだらけです。
ただ、資源採掘権はナショナリズムの影響を受け易いので、余り深入りするのは危険ですので、当面は合弁ないし一部の株式取得から入って行くのが安全でしょう。
過半数・支配権を持つようになるとイキナリ採掘禁止・あるいは上納金の引き上げ外国人株式保有の制限などで嫌がらせされてしまうとどうにもなりません。
資源だけというよりは商事会社のようにいろんな分野の開発プロジェクトの取りまとめをしているうちに、投資技術・腕が磨かれて行った結果とも言えますので、 世界に例のない我が国独自の業態である商事会社の発展は我が国の救世主になる可能性があります。
英米のようにあるいは古くはベネチア共和国のように金融で生きて行くのは危険です。
英米は産業革命後覇権を握ったものの、製造業の衰退後はベネチアの金融立国の真似をしているだけで、独自性がなくて行く詰まっていると言えます。
金融に頼ると弱くなる・・ベネチアが最後は駄目になったのは、相手が踏み倒せば、貸している方もおしまい・・借り手に運命を左右されてしまうからです。
この点は我が国も心しておくべきことです。
製造業→金融が駄目ならば観光と、日本の識者は直ぐに何でも西洋の真似をしたがりますが、こういう虚業では国が持たないことはベネチアの歴史が物語っているとおりです。
ベニスに観光客が多いことは確かですが、観光客からのおこぼれで食べているイタリア人はイタリア人の中で底辺層になっている筈です。
我が国でもどこでもそうですが観光地の入口で土産物を売ったり食堂で働く人、切符を売る人が観光客よりも裕福であることはありません。
観光にシフトすることは国民を外国人のサーバントにしてしまう政策です。

経常収支の均衡1(為替相場)

バブル崩壊後も我が国は毎年20兆円前後の経常収支黒字をリーマンショックまで続けて来たことを繰り返し紹介していますが、本来の経済原理・・円貨の需給による相場から言えば、この累積する巨額黒字と長年のデフレ経済での物価下落=購買力平価の基準から言えば、本来は円相場がジリジリと上がって行くトレンドであるべきでした。
(上記の例で言えば年に20兆円分ずつ上がるべきです)
貿易黒字・・経常収支黒字を続けながら円安誘導出来るならばそんな都合の良いことはないのですが、この矛盾行為をやって偶然成功して来たのが日本の突出した超低金利→円キャリー取引と日本企業の海外進出=海外投資による円の外貨交換需要創出による円安政策でした。
円キャリー取引については以前詳しく書きましたので再論しませんが、日本だけの超低金利政策によって円キャリー取引という変則的関係が発生して巨額の円借入による資金の海外流出・・円によるドル買いですから、これによって円安・・経常収支黒字継続にもかかわらず為替相場の現状維持を演出して来たのです。
理論的には経常収支黒字額と同額が流出すれば円相場は現状維持(上がるのを阻止するという意味での円安政策です)となります。
(その他の海外投資による流出・・トヨタなどの海外工場用地取得など・・もあるので黒字分そっくり円キャリーで流出する必要がありません)
リーマンショック後アメリカもゼロ金利政策になったので、遂に円キャリー取引による誤摩化しが効かなくなってしまい、実力通りの円相場に戻り始めた(約20年間分の巻き戻しですからイキナリ大変な円高になった)のがリーマンショック後の超円高です。
(正確には経常収支黒字分の内かなりの部分を海外進出用投資に振り向けることによって、ドルを買い、円高を緩和していた部分はまだ残っていますがそれだけでは円高基調にこうし切れないということでしょう。)
道理に反した無理な誤摩化しは、いつか破綻するのを覚悟するしかありません。
水の流れを無理に塞き止めるような無理をしていると、あるときダム決壊が生じて、却って国内で生き残れるべき企業まで怒濤に流されてしまうリスクがあります。
増水による水位上昇が10〜20センチの場合、そのまま流していれば子供や老人には危険でも大人はこれに耐えられます。
これを溜め込んで最後の最後にダム決壊で奔流となって来ると、大人どころか家まで流されてしまいます。
リーマンショック以降の急激な円高も、上記の例で説明することが可能でしょう。
もしも自然の流れに委ねて円を小刻みに上げていれば、例えば現在の国際競争力からすればまだ85〜90円程前後が均衡点だったかも知れません。
(76円まで進みましたが・・)
赤字国であり純債務国のアメリカが、日本並みのゼロ金利を続けていると巨額赤字で海外垂れ流しのドル還流に齟齬を来す虞れがあるので、(高金利だからこそアメリカの財務省証券などを外国が購入していた面が大きいので、赤字を減らさない限り何時まで低金利を続けられるか疑問がありますが、軍事力による脅しだけではいつまでも買わせられないでしょう)ここはともかく、円キャリー取引が当面再現しない前提で考えて行くしかないでしょう。
超低金利による円安誘導が駄目になれば、あとは海外進出・投資の拡大によって経常収支黒字分をそっくり吐き出すしかありません。
工場進出など企業による投資は、海外生産すればその分自国内製品をそこへ輸出出来なくなる・・販路を狭め国内生産縮小に繋がるので、単純に黒字分だけ全部を海外投資をする訳には行きません。
(日産がマーチをタイで全量生産始めたので、その分輸出が一部減るどころか逆輸入になっています)
天然資源採掘権益などに対する買収資金流出は、国内産業の販路と競合しないので問題がありませんから、いくら権益取得に資金を使っても円高を冷やしてくれるし、将来の輸入権の確保と相俟って日本では歓迎される関係です。
ちなみに権益取得とは、原油や天然ガス等の輸入代金の一部を20年分ほど前払いしているのと似たような経済関係になります。
アメリカ・カナダなどにとっては20年かかって輸出するのに比例して少しずつ入って来る外貨を前金である程度纏まって取れるメリットがあるでしょう。
シェールガスなどこれからという段階に過ぎず、アメリカの貿易黒字に貢献するのは大分先のことですが、今からアメリカドルが強含みになって来たのは、将来の見込み段階で前金を何千億円と取れるから今からドル需要が増えたことによるものです。
日本の方は経常収支黒字が溜まって円が上がると困るので、ドル資金を手当てして先払いしてでも円安に誘導したいし、赤字のアメリカは今の金が欲しいし、という利害の一致があります。

為替相場と物価変動2(金融政策の限界2)

有史以来日本のバブル期ころまでは何千年も供給不足社会が続いていましたので、紙幣供給あるいは融資の拡大によって、購買力さえ上げれば、それまで欲しくても買えなかった人が購入に走った(それに対する供給を簡単に増やせなかった)ので需要供給の力関係で、一割紙幣を増やせばほぼ一割物価が上がる関係でした。
こうしたもの不足社会を前提にして初めて、実物と交換すべき商品の1つである紙幣量の増減(これは政府が簡単に増減出来ますので、一対一の交換比率のときに紙幣を2倍増やせば2対1の交換比率・2割増やせば12対10の交換比率になります))で物価を調節出来ていたに過ぎません。
(今でも供給者の論理・供給に限界がある前提で社会が回っている部分が多くて、これが日本社会の停滞を招いているのです)
国内で商品が飽和状態にあるだけではなく、仮に足りなくても中国等から需要に応じていくらでも短期間で商品が供給される時代では、仮に紙幣供給が商品量より多くなっても価格に影響を与えることは殆どありません。
この状態が約20年以上も続いているのが我が国の状態です。
供給過剰・グローバル化社会では、紙幣供給量の調節(金利政策も根っこは同じです)の効果よりは、物価の上下は為替相場変動が輸入物価の上下を通じて大きな役割を果たすようになっているので、円高傾向にある限り輸入物価は下がり続ける・・デフレ化しかありません。
逆に円安に振れれば金利如何にかかわらず輸入物価を直撃して上昇し、簡単にインフレになります。
今、円安に振れ始めましたが円が1割下がれば原油等燃料がその分上がって、物価を直撃する大変なことになるのは誰でも分るでしょう。
グローバル化による効果は日本に限らず外国でも同じで、その国の金利を上げて紙幣供給を絞っても、円キャリー取引等を通じて金利の安い他所から調達した資金がいくらでも流入して来る点は物の供給と同じです。
日本はグローバル化以降奔流のように押し寄せる低価格品に圧倒されていましたが、その代わりに低金利で貨幣を大量発行して高金利国に資金を送り込んで(海外工場建設投資などもその一種です)資金輸出していたことになります。
その結果日本は円高によるデフレが進行するばかりですし、他方で中国やアメリカは日本から低金利で調達した資金が大量に流れ込んだ(日本はいくら量的緩和しても国内での需要がない)ので、インフレが進行していたのです。
ちなみに中国ではまだ白物家電その他の生活用品が先進国並みには行き渡っていないので、資金さえ供給されればまだまだ購買意欲が旺盛ですので古典的経済論通りに上昇します。
上記のとおり、現在の成熟国では物価の上下変動の基本は、紙幣供給・金利動向よりはむしろ円高になるか円安に振れるか為替相場次第になっているのです。
日銀・中央銀行の金融調節による物価調節役割は我が国ではとっくに終わっているのに、学者を始めみんなで金融による金融調節にこだわって議論したり金融政策に反応して株を上げたり下げたりしているのは馬鹿げたことです。
こんな過ぎ去った幻みたいな基準にこだわって、上記のとおり日銀は金融調節によって物価を上げ下げする能力などないのにインフレ目標など掲げてみたりして無駄な政策に頭を悩ましているし、マスコミも経常収支の黒字を求めながらデフレは困るなどと矛盾した願望で政治は降り回されているから、何も解決にならないで経済が低迷している面があります。
日本は約20年前から世界最先進国の経済になったのですから、(約20年遅れでアメリカのリーマンショック・超低金利・・追ってギリシャ危機となり日本がやって来た道を辿っていますし、昨年の原発事故もそうですが、すべての分野で世界の未経験の先頭を走っているのが日本社会です)過去に妥当した経済理論のまま遅れた経済社会であるアメリカや欧州などの意見で政治・経済政策をやってもうまく行く訳がありません。

為替変動と物価(金融政策の限界1)

収支均衡の国ならば、現状維持努力が成功しても円は上がらないでしょうが、日本の場合長期間約20兆円もの経常収支黒字が続いていましたので、現状維持努力が成功すれば黒字がそのまま続くことになります。
製品高度化=生産性上昇の努力により、海外よりも高賃金でも貿易黒字を維持出来る・・空洞化阻止に成功すれば、輸出競争力維持=黒字のままですから円が上がってしまうので、再びこれに対する適応努力・・成功すればこれの繰り返しですから、際限ない努力が必要です。
それでも円安の進行による(生活水準低下による)均衡よりは、生産性上昇による均衡努力の方が生活水準が上がる楽しみがありますから、頑張りきれるところまで頑張るしかないでしょう。
高度化努力を怠り貿易赤字になるのを甘受して、結果としてもたらされる円安やインフレよる実質賃金低下に安住するのは、受験で言えば一ランク下の高校や大学を受験して楽しようとするのと似ています。
安易な円安を期待しないで円高期待・・「高くなればなったでそれ以上に努力して切り上がった円相場でも更に儲けられるようにして行くしかない」と腹を決めるのが我が国の正攻法と言うべきでしょう。
円安期待とは、逆説的ですが、競争力を維持出来ないことを見越して・・競争力強化努力が失敗した場合貿易赤字になって円安になります・・を結果的に期待していることになります。
競争力維持努力が成功すれば、これまで通り・・即ち黒字維持によって更に円が上がることの繰り返しですから、この努力が続く限り日本経済はインフレにはならず、デフレ傾向が続くことになります。
貿易黒字の蓄積=円高は輸入物価の下落によってデフレ要因ですし、貿易赤字=円安はインフレ要因です・・インフレ期待も考えてみれば貿易赤字を前提とした変な議論です。
古典的な紙幣供給とインフレ理論が妥当する時代が長かったのですが、今は社会状況が変わっていて、紙幣をいくら乱発しても閉鎖された一国経済と違い海外からいくらでも安い輸入品が入るので、物価は上がりません。
金融政策と言うと難しい理論のようですが、結局は紙幣の量(紙幣も金同様に商品交換対象の商品の1つです)と商品数との需給による価格決定メカニズムの一場面に過ぎません。
例えば古典的理論では大根や牛乳その他商品の供給量が一定の場合、紙幣を2倍供給すれば大根や牛乳その他商品の値段が2倍になる理屈を利用して、金融調節によってインフレ抑制したりデフレからの脱却をして来たのです。
金利の上下や預金準備率の上下は、結果的に市場に出回っている紙幣を金融機関に吸収したり放出することによって量を間接的に調節をする政策であり、量的緩和はズバリ紙幣自体を大量供給する政策です。
しかし消費市場が成熟しグロ−バル化している現在では、これらの政策は底抜けのザルに水を注いでいるようなもので殆ど効果ありません。
大根や牛乳その他商品が消化し切れないほど供給されている日本社会では、給与が2倍になってもその前から飲みたいだけ飲んでいるので)牛乳を従来の2倍も買いたい人がいないどころか殆ど増えないので、価格は同じままで供給された紙幣は預金に回るだけです。
生産材も同様で、輸出低迷による供給過剰状態で低迷しているのですから金融緩和をしても、その資金で思い切って過剰設備を廃棄するのに使うくらいで、設備増強出来る企業は稀です。
(政府から資金を押しけられた銀行も借り手がなく、使い道が分らなくて主に国債を購入しています )

空洞化対策と円高対策の二律背反

為替相場の上昇・・円高は、輸入物価の下落を通じた実質デフレ強化に働きます。
生活水準の上昇・(実質賃金の上昇)は国民には嬉しいことですが、円高になった分仕入れ価格は下がりますが、人件費その他固定経費が下がらない分が対外的競争力に関係しますので、グローバル化による低賃金圧力に加えた更なるハンデイとなります。
日本経済はグローバル化に対応して人件費を下げねば(あるいは高度技術にシフトする・・生産性の向上を図る以外に)国際競争力を維持出来ないとして苦労しているのに、努力した結果貿易黒字を維持すれば円高になって、イキナリ逆張りの(対外的・ドルベースで人件費率上昇)結果出現ですから大変な重荷になります。
国内平均で5〜10%程度賃金を引き下げるだけでも、何年もかかる大変なことですが、円が10%以上上がってしまえば、ストレートに対外的(ドルベースで)人件費が10%上がってしまいます。
最近半年くらいの間に円が2〜3割も上がっているのですから、長年かけて努力して来た平均賃金の引き下げ(生産性向上)努力など、あっという間にひっくり返されてしまいます。
為替相場の上下は、元々貿易黒字国の国際競争力低下を期待したシステムですから、グローバル化・低賃金国対応がうまく行って日本の貿易黒字が続けば、円上昇トレンドになるのは当然の結果です。
これに対して、為替相場が円安に振れれば国内人件費は対外的に安くカウントされるので国内で無理な賃下げ努力しなくとも済みます。
国民全員に対して目の前の賃金を一律1〜2割下げるのは大変なことですが、円相場が1〜2割下がれば対外的には人件費が自動的に1〜2割下がるので何の努力も要らず簡単・安直です。
更に円安が進めば輸入物価の上昇を通じてインフレになり易いので、なお実質賃金が下がります。
政府・産業界がデフレをキライ円安・インフレになるのを望む報道が多いのは、こうした期待があるからです。
円安にするのはどうしたら良いか・・この後で書きますが円キャリー取引による円の海外流出あるいは企業の海外進出による資金流出が考えられます。
貿易黒字を減らせば当然円安になりますが・・貿易黒字の縮小ないし赤字になったのは、輸出産業の縮小+輸入の増加によって国内空洞化が進んで失業増大化してしまった結果ですので、国際競争力維持強化のための円安政策としては意味がありません。
失業をなくすための円安期待なのに、円安になったときは貿易赤字の結果、先に失業が大量発生しているのでは何にもなりません。
円安期待とは言い換えれば結果的に日本が国際競争力を失い貿易赤字なるのを期待していることになります。
空洞化対策・製品等の鼓動技術かが成功すれば結果的に貿易黒字が減らない・・・この努力を続ける限り、一定周期で円高が来るのは必然です。
産業の高度化(生産性上昇)努力によって輸出競争力(巨額黒字)を維持し=外貨準備を積み上げ続ければ円高になるのは当然ですが、貿易黒字のままで円安にしたいと言う矛盾した目的を追いかけて無理をしているのが我が国ですから、いつも日本経済は大変な状況にあると政治家が言うのは(出来ないことを追いかけている以上は)当たり前です。

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