構造変化と格差12(輸出入均衡の必要性)

前回(12月29日)円高現象を市場に委ねた場合どうなるかを書きましたが、実際には、円高対策と称して円が上がったことによって弱くなった分野を関税で保護したり補助金を出して下支えすることが多いので、乱れます
円高によって弱体化した産業を補助金で下支えすると、トヨタなど成功企業の輸出が増えるだけで弱くなった部分の輸入があまり増えずせっかく円高になっても国内産業が簡単に入れ替わって行きません。
元気な産業に入れ替わって行くことによって効率の悪い分野から効率の良い分野に人、物、金などの資源が移動して国全体の効率が上がるのです。
円が上がることによって競争力を失う分野の輸出が減り輸入が増えることによって貿易収支・為替が均衡して行くことが期待されているのですが、補助金や関税で保護すると円相場が仮に2割上がっても輸入が増えないので、為替相場がさらに実力以上(前回例で言えば20%の円高から22〜23%)に上がってしまい、国内の弱い・生産性の低い産業分野の国際競争力が更に下がります。
国際収支もギブ&テイク・・「強い分野は輸出させてもらう代わり弱いものは買いますよ」ということで成り立っているのですが、(古代からの商品交換自体がそれぞれの最適生産品交換から始まっているものです)日本の場合、強いものは遠慮なく輸出させて貰い、弱い分野はその儲けで補助金を出して競争力を底上げして、且つ関税率を引き上げて輸入させないという「アンフェアーな体制」であったことになります。
物々交換の時代には、必ず相手のものを受け取る必要があったのでこんな芸当は出来なかったのですが、貨幣が介在するようになったことから、富みの蓄積が可能になったものです。
日本では輸入したい外国製品がないとよく言いますが、実は関税や補助金で輸入させないようにして来たからです。
これでは、儲けるばかりで輸入しないのですから、黒字が溜まる一方・・結果的に円が上がる一方になります。
日本の弱い分野・・すなわち近代化の遅れた分野・生産性の低い分野に対する補助金+関税保護は、保護すればするほど、弱い分野の輸入が円高になった割には増えないので、(他方で強い分野は輸出しまくるので・・)貿易黒字が溜まり結果的に円相場が上がってしまいます。
円高に対応するための補助や保護の結果、却って円の下落を妨げ円が上がる方向に行くので、競争力がなくなる一方です。
さらに補助金があると危機バネが働かないので、(危機克服エネルギーが技術革新よりも政治に向かい勝ちで)新技術の創出率も下がります。
円高緊急対策と称する補助金支給や関税率の引き上げは、更に円相場を上げるためにやっているようなものです。
関税その他の保護処置のことを、一般的には競争力がつくまでの緩和・・時間稼ぎというのですが、実際には逆効果になっていつまでも離陸出来ない・・むしろ弱くなる一方になっていることが多いのは、円高を収めるのではなく助長することによるものです。
円の切り上げの都度ついて行けない業種・地域・・主として農業では、急激な円高対策と称して補助金で何とかしながら、輸入阻止した分だけ円が上がり、上がった円を基準にすれば余計国際相場と開きが出る構図でした。
これに対して日米繊維交渉の後で輸出の主役から降りた繊維、その次の電機交渉の結果の電機産業等は、補助・保護がなかったので汎用品としての繊維系や白物家電では輸入品に押されながらも自力で技術革新に取り組みました。
例えば東レ(東洋レーヨン)で言えば炭素繊維が特に知られています(その他化学製品を多く造っています)が、東レだけではなく、特定分野(炭素繊維に限らずいろんな素材で)では逆に世界最強輸出産業に変身して生き残っている企業がいくつもあります。
(特定分野に特化出来なくて生き残れなかった繊維系企業はほぼ消滅し・・例えば大東紡のように生き残っていても大手企業と言えないほど縮小しています)
今年1年間ご愛読ありがとう御座いました。
明日の大晦日〜1月6日までは年末年始特別コラムになり、1月8日から、今日のコラムの続きになります。

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