自国通貨が逆流した場合2

一旦アメリカの信用に火がつくと、アメリカが値上がりしたユーロや円で下がったドルを買い戻さねばならないことから、いよいよドルが下がることになります。
世界が保有する外貨準備合計約7兆USドルあまりの内、(中国2兆ドルあまり、日本は1兆ドルあまり)アメリカが保有するのは僅かに700億ドル前後でしかありません。
これではイザとなればアメリカには買い戻す資金がないのと同じです。
(第二次世界大戦後イギリスが外貨をポンド換算で6億ポンドしか持っていなくて、対外ポンド債務=ポンド預金が100億ポンドあったことから、ポンド防衛が戦後経済の大問題であったことを後に紹介します)
ところで、自国通貨が他国の外貨準備に繰り入れられる比率が上がるとその分自国紙幣=紙切れが輸出商品のように売れる・・輸出出来ます。
たとえば、決済用資金として必要な資金としてそれまで海外で保有されている円資金が1000億円であるとした場合、円の信用が上がって備蓄用途として徐々に膨らんで(10年間で)10兆円になったとすれば、日本は実物・財貨・サービスを何も売らないで紙切れの円紙幣と引き換えに9兆9000億円分の外貨ないし、金や鉱物その他の財貨・サービスを取得出来たことになります。
自国紙幣が外国での外貨準備に使われる・・決済に必要な限度を超えたタンス預金化は国力上昇の反映とも言え、誇らしい気分(非合理な民族意識をくすぐります・・)がありますが、(その他に為替相場変動リスクがなくなるので自国通貨建て取引は日本の業者にとっては安楽で魅力です)そんな感傷に浸っているのは実は危険です。
自国通貨が外国で多く保有してくれるのは一種の借金(外国にとってのタンス預金)と同じで、いつかは(日本の国力低下時には)換金要求に曝されるリスク・・ダブルパンチになるリスクがあることを心すべきです。
外国で保有している円が多くなればなるほど、困ったときに助けになるのではなく逆に、困れば売り浴びせて来る予備軍(敵)を多くする結果になります。
日本は国債の海外投資家の保有率は僅かに約5%に過ぎないことをもって、日本経済界は安全性の尺度にしていますが、日本が少しでも弱みを見せたときに付け入られるリスクの観点から見れば、(円の売り浴びせ対策としては)海外に出回ってる円紙幣の総量=債務こそが重要です。
海外に出回っている円はいつでも求められれば、ドルやユーロ・・その時々の支配的通貨で買い戻さなければならない・・一種の対外債務(借金)であって経済的には国債と同じです。
自国通貨の海外保有量の多さ・・・基軸通貨国化を待望する論調のマスコミ報道は、支払能力もないのに借金が多いほど「自分は信用がある」と自慢している価値観の倒錯した人と同じです。
いつでも買い戻しに応じるに足る外貨準備がなければ、一旦歯車が逆転して円売り基調になれば、円為替相場が暴落してしまいます。
単純化して言えば、日本の外貨準備が1兆ドルあって、海外に出回っている円紙幣が5000億ドル分であれば、いくら売り浴びせがあってもびくともしませんが、これが逆に、外貨準備が5000億ドルしかなくて海外に出回っている円がドル換算で1兆ドル〜10兆ドルもあるときに、何かの切っ掛けでジョージ・ソロス氏のようなファンドに目をつけられると持ちこたえられません。
(実際には外貨準備は紙幣ばかりではないことと、決済用資金が必要なことから、これを全部を買い支えに使えません)

自国通貨が逆流した場合1

サブプライムローンも同じでしょうが・・金融資産は実態経済から見れば中間的経路を複雑にして膨張し過ぎている部分が多いので、時々これの是正をして債務者の支払能力の限度に是正して・・評価減して行かないとその乖離が大きくなり過ぎる・・一種のバブル崩壊まで待つのは却って危険です。
不動産バブルも同じで、途中の業者や参加者が多すぎると中間でいくらでも値上がり期待で高値に値段をつり上げて行きますが、本来はエンドユーザーの購買力以上の値上がりはバブルです。
今回のギリシャ危機も独仏等の黒字国が、南欧諸国への貸付金を支払能力以上に名目上膨らましていた咎めが出たに過ぎません。
我が国で過剰に発行された紙幣はタンス預金になって退蔵されたり、直ぐに銀行等に還流してしまい、銀行も民間資金需要がないので国債等へ還流していました。
余ってしまった紙幣の行き先は、(国債で得た資金を政府が税で財政投入資金として不足需要の穴埋めとして無理矢理に利用する以外は、)円キャリー取引としての外国人投資家への貸し付けが中心でした。
日本はここ20年前後膨大な紙幣の発行をして来ても、結果的に余剰な円紙幣を円キャリー取引を通じて国外に流出させて円を海外滞留させて、国内購買意欲上昇に繋がらなかった(国内で紙幣需要がなかったので海外に逃げた)のでインフレにならなかったことになります。
紙幣大量発行=インフレになる従来の社会・・物不足社会であれば貨幣価値が増加発行量に反比例して減価するので経済現象は簡単ですが、成熟国で多量発行してもインフレにならないままになりますと円の保有者は、そのままの額面価値を表面上保有することになります。
その間に仮に紙幣発行量が2倍になっていたら、国民は従来の2倍の金融資産を保有することになりますが、日本の国富が倍増する訳ではありません。
国富の増加は、紙幣発行量によるのではなく生産量によるのです。
生産量が増えていないのに紙幣だけ増やすといつか帳尻を合わせるしかない・・金融資産は紙幣の増刷した量に反比例していつか減価するしかない・・実態に合わせるしかない筈であると言うのが、今回のテーマです。
現在の円高局面(円高とは円紙幣の購入者が多いということです)においてもかなりの量の円紙幣が海外に流出している筈ですから、何かの切っ掛けで円取引が逆流を始めると円は大暴落(インフレ)に見舞われます。
幸い、アメリカドルもユーロも信用をなくしているので、(日本と競合していたドイツマルクはなくなってしまったし・・・)今のところ受け皿がなくて円の保有比率が上がる一方ですから、バブル崩壊後大量発行した円が海外に流出する一方・・需要が底堅いので、今のところ円が逆流する心配はありません。
世界全体で外貨準備通貨として、アメリカドル保有比率が下がる方向に進むとその分ドルを売ってユーロや円を買う・・買い替えが起きるので、貿易等の需要に基づく決済以上に要らなくなったドルがアメリカに還流します。
こうなると将来アメリカの貿易収支・国際収支がトントンになっても、(当面赤字のままでしょうが・・・)諸外国でのアメリカドルの外貨準備保有率が下がって行く分だけ、ドル売り圧力が高まることになります。

紙幣大量発行(成熟国)

金融資産膨張原因の第二は、発行紙幣量だけではなく、株式相場を例にすると、お互いにつり上げを繰り返せば、会社の実物価値の何倍でもつり上がって行くことから、実物価値以上に金融資本が膨らんでいます。
たとえば、時価総額100億円の株式の場合、その株式全部が毎日取引されている訳ではなく、たとえば仮に僅か1%=1億円の株式しか売買取引されていない場合を考えてみましょう。
この取引価格が5倍に跳ね上がって5億円で買う人がいた場合、(5億円の紙幣を払う人と受け取る人がいて)市場に出回る紙幣額は同じですが、取引に参加しなかった株式全体の相場を5倍に引き上げるので、僅かに4億円の投入で金融資産は400億円増える勘定です。
こうした仕組みから発行済紙幣量に関係なく取引が活況を呈すると株式時価総額が膨張する傾向があり、ひいては金融資産が実物価値を大幅に越えて来る傾向があります。
貸金の場合も、高利の場合、当初の借金1000万円が瞬く間に何倍もの名目上の借金になって行くのもよく知られている通りです。
このように紙幣発行量の膨張だけが原因ではなく、金融資産の性質からも膨らみ続けて来た金融資産は、いつかは経済実力・実態に合わせた調整をするしかありません。
紙幣発行量を倍増しても国内の富みが2倍になる訳ではなく、従来の経済理論では単に物価が2倍のインフレになるので、(その分対外的評価は為替相場の下落によって調整されるし)結果的に総紙幣の価値と国内総資産評価量は一致していました。
ところが、日本のような金融資産が1400兆円もある成熟社会での不景気は、紙幣不足で物が買えないのではありません。
大量に輸入品が入って来たことによる供給過剰の不景気ですから、紙幣を大量供給しても購買力にはあまり影響がないので物価が上がることはありません。
供給過剰による需要不足が問題ですから、紙幣を大量印刷したうえで金利を下げても消費がちょっと上向くだけ・・・比喩的に言えば政府が道路補修頻度を引き上げるなど無駄遣いすることによって100の需要不足の内3〜40の需要を補充する・・経済の底割れを防ぐ程度でしかなく、インフレになるどころではありません。
いくら紙幣を大量発行してもゼロ金利にしても、インフレどころかデフレ圧力が続いているのが、我が国のバブル崩壊以降約20年の経済です。
我が国のような成熟国では紙幣需要(財貨の購入意欲)があって発行するのではないので、紙幣を大量発行しても金利を下げても、それがインフレに繋がることはありません。
前回・11月27日に書いたように仮に2倍量の紙幣を発行して物価も2倍になれば発行された紙幣での購買力は結果として同じですが、2倍量の紙幣を発行しても物価が上がるどころかデフレで下がっていると、紙幣の価値が下がらずにその国民は名目上2倍の購買力を持つことになります。
でも国内の富みがかりに同じままとすれば、(高度成長でこの間に国富が2倍になっていれば均衡しますが、日本のように低成長で殆ど増えなかった場合)2倍に増えた購買力をみんなが行使すれば、物が足りなくて結果的に物価が2倍に上がります。
今の日本は、みんなが金融資産にして持っていて、紙幣による購買権を行使していない状態ですが、もしも使えば直ぐに2分の1になってしまう架空の権利と言えます。
上昇した株価も同じでみんなが権利行使・・売却して換金を図れば、直ぐに大暴落してしまう権利でしかありません。
このように、(サブプライムローンも同じことだったでしょうが)金融資産は実態経済から見ればその中間経路を複雑にして膨張し過ぎている部分が多いので、時々これの是正をして行かないとその乖離が大きくなり過ぎる・・一種のバブル崩壊まで待つのは却って危険です。
今回のギリシャ危機も独仏等の黒字国が、南欧諸国への貸付金を支払能力を超えて名目上膨らましていた咎めが出たに過ぎません。
我が国で過剰に発行された紙幣はタンス預金になって退蔵されたり、直ぐに銀行等に還流してしまい、銀行も民間資金需要がないので国債等へ還流していました。
余ってしまった紙幣の行き先は、(国債で得た資金を政府が税で財政投入資金として不足需要の穴埋めとして無理矢理に利用する以外は、)円キャリー取引としての外国人投資家への貸し付けが中心でした。

ドイツ国債の売れ残り2(金融資産劣化)

南欧諸国に貸し込んでいたドイツ・フランス等の金融資産が劣化し、ひいてはドイツ・フランス国債が大幅下落になれば、独仏の国債や独仏の金融機関債・株式を安定した金融資産として買っていた日本その他世界中の金融機関・機関投資家の財務内容が痛み、スパイラル状に世界中の金融資本がダメージを受ける展開になりかねません。
それはそれで良いかも?あるいは仕方のない現象だと思う人もいる筈ですが、そう言う意見はマスコミには出ません。
いつかはこうした事態が来ることが分っているにしても、経済の大混乱が起きることを先送りしたいからです。
世界中の金融資産が痛めば、世界中の経済が変調を来すのは当然ですが、それは借金清けで消費を謳歌していればいつかは破綻が避けられないのと同様に、世界全体の経済も紙幣の際限ない発行で水増ししていればいつかは破綻して仕切り直しが必要になるのは同じ・・浪費経済がいつかは破綻するのと裏腹の関係です。
世界経済が大変なことになると先送りばかりしていても、イザとなれば先送りした分だけ混乱が大きくなるばかりですから、早めに調整しておく方が混乱が少なくて済むのではないでしょうか?
経済力=支払能力以上に名目上ふくれあがった金融資産は超過分だけ実質的に劣化しているのに表面化を先送りしているだけであることを以前書きましたが、ここで再論します。
世界の総生産はそんなに増えていないのに、アメリカがドルと金交換停止以来アメリカ政府に限らず輸出競争に負けたり不況の度に財政出動の必要性という錦の御旗によって、どこの国でも紙幣をじゃぶじゃぶと発行して来たので、国内実物資産の増加以上に流通している紙幣→預金等の金融資産が無茶に増えていることが第一の原因です。
2011-11-25「投資用資金と消費資金」でも少し書きましたが、成熟社会では、歩道をより綺麗な石張りにする・図書館を斬新なデザインで建て替えるなどの公共工事が中心になって来て、この支出によって生産効率が上がる訳ではなく、むしろこれらの維持管理費が上昇することによって次世代を高コスト社会にして行く弊害の方が大きくなり間。す。
この辺は2011-11-25「投資用資金と消費資金」で書いたばかりです。
私は経済学の素人に過ぎず、おこがましいのですが、財政出動による解決を促すケインズ理論は成熟社会に合わないことを「国際競争力低下と内需拡大5」等で書いてきました。
ただし、ケインズは彼が戦時中から、戦後のポンド危機解消策・・IMF体制の前駆的議論において「為替は金とのリンクに関係なく、国際収支にリンクさせるべき=今の為替自由化を説いていたことは正しいなど、経済界の巨人ですし、私はすべて間違いと言っているのではありません。
・・あたかもニュートンの万有引力論は全面的に間違いではないが、妥当領域が限定される・・相対性理論の範囲で違っているのと同じです。
最近のニュートリノだったかの実験では、光を追い越して来る現象すら次々と報告されています。
理論は原則として正しいとしても学問の進歩によって、部分的に変わって行くのは当然です。
ケインズの投資理論については、まだ学者の批判論文を読んでいない、素人の思いつきでしかありませんが、成熟国では当てはまらなくなっているのは確かでしょう。

ドイツ国債の売れ残り1

借金で誤摩化していても大きな企業や国は海外法人を巻き込んで複雑な操作が可能なので結果が出るのに長くかかるだけであって、その代わり結果が出たときには被害が大きくなります。
(オリンパスのバブル崩壊時の巨額損失先送りが、外国人社長の解任劇に端を発して最近明るみに出て大騒ぎなっていますが、規模が大きいと長期を要することが分ります。)
ギリシャのような小国と違い、イタリアがもしもギリシャのようなことになると,世界第7位の経済規模ですから、世界経済に与える混乱は半端なものでありません。
この混乱の影響が既にフランス国債相場へも波及しつつあると思っていたら、11月24日、欧州経済の要石であるドイツ国債でさえ発行額の約3分の1も売れ残りが出たので、大騒ぎになってきました。
私見によれば、ドイツ国債の売れ残りはドイツ国債そのものの信用力低下に直截よるものではありません。
ドイツの突出した国際収支黒字を背景にドイツの銀行等金融機関が貿易赤字国である南欧諸国の国債を大きく買っていたことによるものです。
貿易赤字諸国では赤字財政を組もうにも貸してくれる国内金融機関が脆弱・・資金不足ですから、国外勢に自国国債を買ってもらうしかありません。
ドイツ等黒字国が赤字国の国債を買うことによって、赤字分とほぼ同額の還流資金を得た赤字国は財政出動が出来、(公共工事をして失業救済したり、年金支給資金にしたり、)ひいてはその恩恵で国内生産高以上の国内購買力が維持出来ます。
この結果、赤字国国民は収入以上の買い物が出来るので・・国内経済が回って行く代わりに貿易赤字が続き・黒字国は赤字国の借金による消費力を利用して更に売り込める(貿易黒字を続けられる)仕組みでした。
これを繰り返していると赤字国の借金は膨らむ一方ですから、いつかは破綻するのですが、この辺のアフリカ最貧国に対する債務免除に関するローマクラブなど債権国会議の時代をNovember 5, 2011に紹介したことがあります。
今回のギリシャや南欧諸国の債務危機は、これまでのアフリカ最貧国に対する債権国会議のヨーロッパ版と見るべきです。
最貧国の債務が雪だるま的に増える状態になって来ると債権国は棒引きの会議をするしかないのはこれまで同様です。
ですから、南欧危機は独仏等の黒字・債権国の金融資産の大幅劣化・損失危機でもあったのです。
独仏等の金融機関はギリシャ危機によって保有債権の値下がり損失が大きくて、自国の国債を購入する資金余力がなくなって来たために、今回の自国国債を購入する資金が足りなくなったために売れ残ったのでしょう。
ですから,直截ドイツ国債の信用力がなくなって買い手がつかなかったのではないとしても、結果的にドイツの黒字蓄積と言っても同じ経済圏内の貸したり借りたりの数字に過ぎなかった意味がはっきりしてきて、国内金融機関が買わないと外国勢が買わないということは、長期的に見て信用力が落ち始めたことになります。
この辺はドイツの黒字と言っても、EU内の蛸足配当的黒字に過ぎなかったことをNovember 16, 2011「ギリシャ危機4(財政赤字の結末)前後で書いて来た通りの結果が出て来たに過ぎません。

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