円高対策1

前回の分散投資の続きですが、その前提としてここで少し円高について書いておきます。
為替自由化は、貿易黒字のたまり過ぎる国の為替相場が上がることによって交易条件の悪化に伴い国際貿易の均衡回復をして行こうとするものですが、日本のように貿易黒字が減って来ても海外投資による収益・・所得収支の黒字が大きくて結果的に経常収支黒字が大きい国は、貿易黒字で稼いだ以上に世界中からお金が集まって来ます。
この結果貿易商品の国際競争力以上の円高になりかねず、輸出が壊滅的になって将来的にはアメリカのように貿易赤字国になってもまだ円高が続く危険が有ります。
この場合為替相場は貿易収支の修正機能と関係がなくなりますので、言わば悪い円高です。
現在の我が国はまだ貿易黒字基調ですが、(リーマンショック、あるいは大地震等特殊要因でトキに赤字になるだけで年間を通じての赤字はまだありません)これが今回のような急激な円高になると、今度こそ貿易赤字基調に転換してしまうかも知れません。
貿易赤字が継続すれば普通なら外貨収入が減って行き円は下落する筈ですが、総合収支である経常収支が黒字のために貿易は赤字でも外貨収入が増えてこれを円に替えることから、貿易赤字になっても我が国では円が下がるどころか逆に円が上がり続ける「悪い円高」になる可能性が有ります。
円高でも、貿易黒字による値上がり分は仕方がない・・貿易収支の均衡を図るために合理的なものですが、所得収支による黒字分も含めて円高になっている分だけ国際競争力の実力以上になっているのです。
貿易赤字が進んでいるのに経常収支の黒字が続くために更に円高になって行くと、輸出産業どころか内需産業まで輸入品に負けてしまい、国内産業は現場労働以外に何もなくなるまで進んでしまいます。
円高その他の要因で輸出産業が弱体化して、先細りになり、他方で従来通り原油等の輸入が続くと輸出の減った分だけ黒字が減ります。
国際競争で負け始まると輸出が減るだけではなく、逆に輸出していた商品が輸入品に入れ替わって行き国内生産がゼロになります。
往年の花形輸出品だった家電製品で見ると白物家電その他かなりの分野で既に輸入品なっていますし、パソコンもテレビも(ここ数日前からパナソニックのテレビ生産からの全面撤退が報道されています)そうなって行きそうです。
ドンドン輸出商品が逆に輸入品に押されるようになって行き,貿易赤字化が進み国内生産ががじり貧になって行くのに、利子・配当所得等の結果、円高が更に進むのでは困ります。
以上のように見て行くと、為替相場は貿易収支に連動している限り貿易収支の均衡回復機能を持っていますが、貿易外の総合的な収支である経常収支に連動するところに問題が有ることになります。
100の輸出が80〜60〜20と減るだけではなく、ゼロどころかマイナス(輸出商品まで輸入品になります)にまで落ち込んでも、それ以上の所得収支黒字のある限り、為替相場だけは上がり続けます。
従来の輸出産業であった分野まで輸入品に席巻されて行くので、その分国内産業までが縮小して行き結果的に失業者が溢れる社会になってしまいます。
金融や知財でいくら儲けるようになっても、1億の国民の仕事では有りません。
この辺は後に格差社会のテーマで書きます。
国内産業が壊滅した段階で漸く円安基調になっても一旦壊滅した産業の復興には数十年以上かかるので、(技術者がいなくなります)今のアフリカ諸国みたいな結果になると大変です。

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