定期借地権3(手切れ金7)

前回紹介した借地権譲渡手続きを工場用地取得、あるいはコンビニやファミリーレストラン用地などビジネス環境として見ると、数年掛けて増産や新規立地など研究・調査して漸く候補地が絞られ、出店地域等が具体化して借地人と交渉して借地で経営している事業者が一定金額で売っても良いとなってから、次に地主の承諾を得る手順になります。
数ヶ月掛けて承諾料その他の交渉を経た結果、地主に断られてから、更に約半年から1年かけて非訟手続きをしても、その結果地主が買い戻すと言い出せば、(9条の2第3項)それまでの努力がすべてパーですから、各種の進出計画としては時間がかかり過ぎるのと終了時期が不明確な上に結果が不確定すぎて所有権を取得する土地と比べて商品価値が著しく劣ることになります。
面倒くさすぎるので、似たような立地条件の土地がある場合、借地を買う話は競争になりません。
20年ほど前に親会社が子会社からの工場買収計画に絡んでこの種の事件を担当したことがありましたが、親子会社で名目上の借地名義人移転に過ぎず、操業はこの間も同じように続けていたままでしたから駄目元でゆっくり法的手続きをしていられましたが、これが本当の他人間の借地権売買・新規事業開始の案件ですと、とてもじゃないけど時間がかかり過ぎるのと不確定すぎてやってられない感じでした。
今時こんな不確定すぎるのでは、商品経済社会の対象になり得ませんので、実際に、承諾手続きをする人は極く稀ですし、借地権価格と言ってもアカの他人間で通用する客観的な交換価値ではなく、地主借地人間の立ち退きに際しての人的な解決金でしかなかったのです。
譲渡承諾を得られる場合には、一般的に既存建家を取り壊して新たな施設の建設同意とセットでした。
(ファミレスの後に別の業態が出店する場合、ある事業所が廃業してその跡地を譲り受ける場合、同じ建物のまま利用しすることは滅多にありません)
このように譲渡同意を得られる場合でも、建物新築同意も含まれて・・借地期間や地代の変更など総合的に一挙解決が普通ですので、総解決金・コストは事前に読み難くくなっています。
期間満了時の更新可否の不確定さも商品価値をなくす要因でした。
これまで紹介しているように、契約期間が満了しても地主側に更新を拒絶出来る正当事由がなければ更新拒絶が出来ず、判例の基準では容易に認められない実情が続いていました。
社会構造変化・利用実態の変化から従来職種では有効利用出来なくなった借地人が、自分から出て行きたいと言うと無償で出て行かねばならないし、上記の通り有効利用出来る他の人に譲渡することも実際には難しかったので、既得権を失うまいとして不採算事業や老朽家屋にしがみつく不合理な事例が増えてきます。
地主から見れば現借地人の経営が苦しいならもっと利益の上がりそうな人に貸したくとも貸せません。
先行き不確定さを補正するために昭和50年代中〜末頃ころから、判例でも正当事由の補完として地主や大家が相当な代償金・解決金支払を提案すれば正当事由を認める運用が始まっていましたが、それでも勝敗は裁判をやってみなければ分らないので、(裁判の終わる時期も不明ですし)予測可能性を要素とする現在社会向けではありませんでした。
この不確定性を是正するために、平成に入って借地法の改正ではなく新借地借家法として造り直して、定期借地借家制度が出来ました。
定期借地権や借家権では、特定の契約形式=公正証書によれば、更新の出来ない借地契約・借家契約が可能になりました。
これによって、返還時期が明確になって、商品価値が高まったことになります。

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