全食品検査3(国民の信用)

 事実上(法的には出荷制限解除された後・あるいは出荷制限しないための風評被害)の買い控えによる地元・国内業者の損害は、原発事故による損害にカウントされなくなるのでしょうが、法律論は今後の論争に待つとして(被害相談を受けることの多い弁護士では、自主避難等の被害も損害に含めるべきだという立場の人が多いでしょう)、国民経済的に見れば、こうした損害もカウントした上で原発の方が安いかどうかを議論すべきです。
風評被害であれ、何であれ、結果的に食品関連の輸出が阻害され、逆に輸入が増えている事実は、その分は原発事故による我が国の損害です。
今日の日経朝刊5ページによれば、チーズ等の酪農製品の輸出品については海外での輸入規制が特に厳しくこれがまだ(と言うことは10月7日の記事を書いたとき現在ということでしょうか?)続いていて、今年4〜6月の食品輸出は大幅に落ち込んでいると書いています。
中国の高速鉄道大事故で原因が究明されないままの運行再開に不安でも、中国国民には他の交通手段を選ぶ選択肢がないので、(普通車を申し込んでも「売り切れ」と言って断られるようです)乗らざるを得ない・・満員が続いていると報道されますので、国民に信任されていると中国政府が強弁しているのと同様です。
満員の定義に関するある本によると実際に乗って見ると乗車率は2〜3割が漸くらしいですが、中国ではたとえばある座席に東京横浜間に一人乗り、京都大阪間に一人乗るとその座席は200%の乗車率と計算しているらしいのです。
ただし、中国政府も当初は強気でしたが(客に敬遠されてガラガラになったからでしょうか?)最近では運行便数を大幅削減し、スピードも落とすようになったようです。
政府の方は牛乳や豚や鶏の検査をしなくとも、国民が黙っているし、仮にどのような批判が起きようとも、牛乳の場合全国ブレンドしてしまえば国民は選べません。
報道規制と同じ現象・結果です。
政府・業界は少しでも日を稼ぎ(放射性物質の飛散は水素爆発直後からはかなり収まっているので)、今年の3月以降7月頃まで現地の草や餌を食べた鶏や豚を出荷してしまってから検査すれば、結果が出なくなる可能性を期待して月日を稼いできたのでしょう。
そして国民の批判が強くなってくれば心配がなくなった頃に「そんなに心配なら・・・」と検査して「結果は何ともなかった」と発表して「安心してください」と言う方針だったかも知れません。
肉牛だけの検査はおかしいのではないかという意見はこのコラム(このコラムは稲藁汚染の報道のとき以来疑問に思って書き始めていたものですが、先送りになって今になってしまったので・・・)以外寡聞にして聞きませんので、政府・業界はウマくやり過ごしてしまったようです。
仮に牛乳その他畜産類が汚染されていたとしても、3ヶ月か半年で汚染食品がなくなるならば、(一生あるいは4〜5年続けて食べ続けるのでないならば)その間福島付近の野菜や卵を食べ続けても(汚染率にもよりますが低濃度汚染の場合)トータル摂取量は大した害がないのかもしれませんが・・・。
政府が恣意的に出して来る暫定基準値の信用がないので、どこまでなら安心かの目安が分らない結果、国民はゼロ以外は嫌だという心理になってしまっています。
原発事故発生によって、これまでの政府・電力業界による安全神話がまるでインチキだったことが白日に曝され、(想定外の津波による被害という当初の宣伝も虚偽だったことが分ってきました・・あちこちのパイプ破損や電柱網の地震による寸断が基本的な原因で冷却装置がいつまでも起動できなかったに過ぎません・・今でも(8月頃の情報です)パイプ類の補修が完成していない様子です。)その後の暫定基準値や避難区域の設定等々信用を失う場当たり対応が続いてしまいました。
原子力行政を考えるにあたっても、何事も国民の信用の上に政治が成り立っているという簡単な原理に立ち戻るしかないのではないでしょうか?
風評被害が起きるのは、政府信用性の低さに比例することになりますから、風評被害発生を如何にも風評で行動する国民が悪いかのように言いますが、風評の広がり程度は政府信用・原子力政策に対する信用度のバロメーターです。

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