社債の会計処理を書いたついでに、以前少し書いた原発事故の賠償予定引当金を計上していなかったであろう会計処理の妥当性についてもここで少し書いておきます。
事故直後株価が大暴落したという事実は、東電には賠償能力がないとの市場判定・・充分な引当金を積んでいないか充分な保険加入がなかったと想定出来ます。
引当金処理をしていた場合、税務上これをコストとして認めてくれるかどうかの隘路もありますが、何らかのマイナス勘定・・債務として引き当てが必要であったことは明らかでしょう。
June 11, 2011「巨額交付金と事前準備3」前後からJune30 2011「交付金の分配」まで連載しましたが、原発立地するだけで危険だからとして地元自治体に巨額の交付金を交付していた事実自体が、その交付金以上の巨額賠償リスクがあることが(交付制度が一部利権政治家の意思によったものではなく、国民の意思に基づくとするならば)国民総意であったことになりますから、これをコスト計上して置くのは国民総意に叶うことです。
損金計上をして税務上否認・更正決定されるならば、国民総意に反しているとして更正決定に対して不服申し立て→最終的には裁判で争うべきだったことになります。
ただし、いくらまでがコストなのか過大計上になるのかの争点が残りますので、この争いを避けるためには、8月15日以降チラチラと書いている保険契約による保険料支出計上が合理的です。
月額保険料の高低くらいならば、否認されてもそれほど大きな争い・・負けても大きなリスクにはなりません。
それとも巨額交付金を前払いしているので、それ以上の賠償義務がないと考えていたのでしょうか?
それならば原発賠償法制定自体が意味のないことになりますから、賠償法がある以上、交付金を交付していても、事故が起きれば賠償義務が生じることが法律上予想されていたことになります。
8月18日に紹介したように、原発賠償法で命じられている1事業所1200億円以内の供託または保険加入さえしていれば、それで賠償金に足りると考えていたのでしょうか?
どこかで書いたように思いますが、営業保証金や宅建業法などの供託は、最低保障をすることで業界の信用を守るのが目的であって、被害がその程度しかないという意味ではありません。
言わば、交通事故被害のために最低額として強制保険(自賠責保険)があるのと同じで、人としての最低義務である強制保険さえ掛けてれば任意保険に加入しなくても良いと考える人は滅多にいないと言えばいいでしょうか?
法で義務づけられている供託しかしていなくて、その上乗せ保険に加入していなくとも天下の優良企業として十分な対応であると考えていたのでしょうか?
大手運送会社が保有車両に強制保険しか加入しない会計処理をしている場合でも、監査法人は適正意見を書くのでしょうか?
保険の話題が出たついでに保険と原発事故の関係を書いておきましょう。
想定外の事故による巨額損失発生に備えて、保険が発達してきました。
保険制度は想定外の巨大な事故被害を通常の積み立てでは補填しきれないことから、分母を大きくしてみんなでリスクを分担し個々の会社の費用を均一化しようとするものです。
事故が起きないように「充分な安全教育をしている」ので、と言う理由で、保険をかけないでいて事故が起きてから損害賠償能力がないという言い訳の通る海運業者や運送会社はないでしょう。
タイタニック号の悲劇のように想定外のことが起きるのが自然現象ですから、そのときのために保険をかけてリスク分散しておくのが普通の企業活動です。
想定外・・偶発性があって予測不可能なアクシデントで、しかも一度の被害による損害額が大きくて経営や一家の屋台骨が揺らぐリスクのある場合・・一家の大黒柱の死亡に備えた生命保険や、一度の事故で巨大な損害になる商船の難破などに対応するために保険制度が発達して来たのです。
原発事故被害の場合、事故発生のメカニズムと発生したときの損害額がどのくらいになるかについては、まさに人智の及ばない領域ですので、この分野こそ保険の理念に合致するものですから、原発事故に備えて保険加入を検討しないでよい理由はありません。