原発事故損害賠償資金1(政府保証債1)

冷却装置停止・・高熱化に任せて現場の人はみんな逃げてしまって連続臨界になってしまう・・手が付けられなくなるのを防ぐには、(国民感情から言えば悔しいけれど)先ず倒産させないことが原発対策の第一でした。
経済界・市場の動き・・これを受けた政治の世界での東電の賠償責任の範囲と政府責任の範囲を決める法案が急がれていました。
どんなに大きな損害があろうとも東電はその一部・一定額までしか負担しないという法律を作るのでは、今までよりもよけい安全対策がおろそかになる・モラルハザードを助長するばかりです。
大被害が発生したばかりで、国民感情が許さない印象であったことから、どうなることか不明なことから東電の株価は400円台まで下がったまま低迷(様子見)していました。
法的枠組みはどうなろうとも、ともかく東電を倒産させない方向性が決まって資金ショートを免れる見通しがついて、東電株も5円〜10円台まで下がらずに400円台で安定しその後マスコミからこの話題は消えていました。
8月3日に国会通過して公表された結果によると、損害限度額を定める原発賠償法の法改正は世論が納得しないからでしょうが、これを(当面)諦めて、別の賠償支援法を制定したようです。
(政府ホームページから入って行けば条文が公開されているでしょうが、安直にグーグル検索から入って行くと20日現在では、マスコミ報道ばかりで条文が出ていないので正確には不明です)
すなわち
先ず原子力業界で機構を作って、(東電名義の社債発行では買い手がつかないので)機構の名義で社債を発行させて機構に基金を用意させる。
東電が機構から資金を取り入れて当面の資金ショートを防ぐ、(それだけではなく将来の賠償資金の借り入れも含まれているでしょう)東電が機構に返済出来なければ機構が投資家に対して社債を償還出来ませんが、そのときに備えてその社債償還について政府が保障する間接的政府責任で解決することになったようです。
政府が損害の何割負担するあるいは東電が一定額までしか負担しないで残りを税府が全部負担する直接責任ではないので、表面上は東電が従来通り100%被害者に支払責任がある形式です。
機構名義で社債を発行しても、そこで得た資金を原発大事故による損害賠償資金に使うとなれば、5〜10年先に期限が来れば償還不能が目に見えているので、これに政府保証を付けることになったようです。
ついでに社債の償還について書いておきますと、一般的な社債の期限・・長めでも5年くらいの期間の場合、元利をその間のもうけから完済出来る訳がなくて借り換えで繰り返してるのが普通です。
・・まして社債で集めた資金を賠償資金に使うとすれば、工場新設などの投資資金と違って対応する入金がないのですからなおさら5年や10年で元利全部を返すなどは無理です。
政府保証であれば社債の償還期限が来ても、借換債を再発行出来るので返済期限を事実上無限に延ばして行けることを考えたのでしょう。
新機構を造っても次々と到来する東電の社債償還資金を貸してやるべき資金が機構自体にはないので、機構の名義で社債発行して資金確保してこれを東電に貸してやる仕組みですからサラ金などで借りられなくなった人が友人や妻の名義で借りてもらう形式と同じです。
しかし、これは東電が賠償資金を借りた場合完済能力がないという見立てによること・・即ち社債借り換え不能になったことが話の発端ですから、新機構が貸しても結果的に焦げ付く見通しであることは同じです。
とすれば、新機構の発行する社債の信用力は、将来発生するであろう東電の損害賠償資金決済不能のときには、名義を貸してやるべき機構自体が、自前で決済してやれるほどの資金力を持っていないと意味がありません。
融手(融通手形)を借りてもその発行人・振出人の会社信用の範囲内しか、融手の割引を受けられないのと同じです。
妻や友人の名義でサラ金から借りようとしても、その名義人の信用の範囲しか借りられません。
新設した機構自体にはこれと言った独自資金がないのですから、将来東電が借りた賠償資金を返せないときに代わって全部負担してやるほどの資金力がないのが明らか・・業界全部束になっても今回の賠償金を捻出出来ないというのが市場の見立て・・信用がないのです。
東電の支払能力不足を市場が見越して東電の社債発行が不可能になったのと同じ理由で新機構を造ってもその機構の信用範囲しか東電救済のための社債を発行することが出来ない点は同じです。
そこで新機構の発行社債に政府が保証を付ける・・政府信用で発行出来るようにしたことになります。
電力業界と言えば超優良企業の集まりの筈ですが、これが束になっても原発事故賠償金を賄うほどの巨額社債発行には、支払能力に市場で疑問符がつく・・信用がないということです。
市場の見立てでは、今回の賠償金額はそれほどの巨額が見込まれているということを理解しておく必要があるでしょう。
業界が束になっても保証しきれないような賠償金を、日常の運転資金のコスト計算に入れたらどうなっていたか・・本当に原発の方が安いのかが今回のテーマです。

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