アジアは後進国が多いからこの条約加盟をみんな渋っていると言うのが一般的理解ですが、親子のあり方に関する深層的な意識の差が大きい面があるからではないでしょうか?
西欧人でも、男女比で考えれば当然女性の方が子供に対する愛情が深いでしょうが、アジアと違って西洋の上流・有産階級では子供の頃から子供を手元で可愛がって育てる習慣がないなど、(我が国でも乳母の制度がありますが、ちょっとした金持ちがするものではなくこれはよほど高貴な家柄に限られます)大分違う印象です。
この伝統の上に寄宿舎制度が発達したものでしょう。
この母子一体感の意識が薄い御陰で西洋の女性は早くから子育てから解放されますので、母親が自分で育てるアジアに比べて女性の自由時間が増える・・男女平等への動きが速くなったような印象です。
オーストラリアからスイス人母が子供を連れ出して、この条約で強制返還になったのですが、オーストラリアの夫が子育てをする気がなくて、子供が児童施設に保護される事態が起きて、(母親がいるのに無理に引きはがして孤児扱いです)どういう手段か知りませんが、もう一度スイスに連れ戻せた事例があるそうです。
先進国同士であるスイス&オーストラリアの事例を見ると、先進国と後進国の争いと言うよりは、欧米では母子関係の意識がアジアとはかなり違う可能性があります。
昔から、アジアでは「この子はあなたの子です」と生まれたばかりの子を父親に抱かせるのは、母子一体を前提とした上で、その外側にいる夫に対して嫡子として確認させる・・父親の権力・地位世襲の権利確保のために必要な儀式でしかなかったのです。
この時代には、父親は生みっぱなしでも親の威光にすがりたい子供の方から天一坊のように「御落胤です」とすり寄ってくるものでした。
天一坊事件の場合、親子の対面にまで進みませんでしたが、仮に御対面まで行った場合、嬉し涙を流しても、長年打ち捨てられていたこと対する恨み言を一切言わないルールです。
子がすり寄ってくる程の資産を残せない時代には、こんなうまい具合には行きませんので離婚後せっかく苦労して仕送りしていても、年老いてから子に逢っても子から母親の仇のような目を向けられるのが落ちのようです。
(資産の大小と言うよりは、農業時代の農地や領地の継承は大は大なり、小は小なりに農地を継承すれば耕作して食って行けるメリットがあったのですが、今のように使えば減って行くばかりの資産と違います・・この辺は、2010-9-12「(1)・・能力社会の遺産価値、(2)・・農業社会の遺産価値」で書きました。)
そもそも子が親の遺産を当てにしてすり寄って来るのは普通のこととして、父親・オスの方は子にすり寄って来てもらうことにこれと言った必要性を感じません。
仮に老後を子供に頼りたいと言う気持ちのある男がいたとしても、離婚後無理な仕送りをして病気になったり無資産で老後を迎えるよりは、無理して仕送りした貧しい親よりはある程度資産を残している親の方が子から大事にされる・・あるいは一定の資金を残してヘルパーなどに頼んだ方が良いと考える男が増えてくるかも知れません。
養育料不払いに対する歯止めとしては、November 10, 2010「養育料3と民事執行法11」で強制執行制度の改正強化を紹介しましたが、この方面で対応して行くと男は自衛のために子供の出産自体に反対する傾向が強まってきます。
昨年春先に解決した離婚事件では、女性にはいろいろ不満がありましたが、何よりも「夫が子供を生むのに反対している」ことが離婚決断の大きな理由でしたから、静かにオスの反撃が始まっている様子が分かります。
雄にとって、子供を持つことは雌のサービスが悪くなるだけだった(精神面でも妻の関心が子に集中して行く)のに加えて、今では離婚後も長期に及ぶ子育てコスト負担のリスクまで負うようになると、結婚・同居生活に左程メリットを感じなくなる傾向が強まるのは否定出来ません。
母子一体感は子育てを命がけで行うために遺伝子に仕組まれた智恵でしょうが、親族共同体が崩壊し、近隣の助け合いもない一方で、まだ社会資本の充実がイマイチの現在では、母子一体感だけでは子育てを完成させられません。
そこで身近な資源である夫の協力が最後のよりどころになりますが、母子一体感が強すぎて男親がその枠組みから阻害されるままにして置いて、子育てに協力だけさせようとしても無理があります。