私が弁護士になったころから、既に経験的感想では女性からの離婚請求(・・離婚自体に争いがなく慰藉料や財産分与の金銭的要求)が圧倒的多数でした。
(ただし、最近は親権の争いやローン負担・養育料請求が中心になっています)
逆に男からの離婚請求は何となく認められない風潮があったのです。
破綻主義の判例と言っても男から理由もなしに離婚請求してもちょっと認められにくい・・それなりの手切れ金の提案がないと無理な感じでした。
職の不安定な男・・日雇い系現場労務者の場合は家に帰らない実力行使で直ぐに離婚になっていましたが、公務員等職の安定している男性の場合には、妻に不貞行為がない限り男性からの離婚請求は認められないので、別居して生活費だけ送っている事実上の離婚状態が多くなっていたのです。
借地や借家人の方から出て行ったり労働者がやめるのは勝手(法的には契約違反ですがほとんど誰もこれをとがめません)ですが、地主や大家から出てくれと言ったり、解雇するには厳しい制限があるのと同じです。
社会保障の充実やダブルインカムの時代が来ると、母子あるいは女性の経済力向上の裏付けがあって、制限的運用よりは「破綻しているなら仕方ないでしょう」とする判決が増えて来たのは当然です。
こうなってくると、男性側からでも破綻したと言う理由だけで離婚請求が認められる時代になってくるでしょう。
そうこうする内に有責配偶者からの離婚請求でも、別居期間その他相応の生活保障がされている場合には認められる最高裁の判例が出ました。
下記の判例では、ものすごい長期別居事件でしたが、(35年くらいだったかな?)その後の判例の集積で、現在では期間だけで見れば(未成熟児がいるか否かなどのその他の要因を除けば)7〜8年くらいが相場でしょうか?
昭和62年最高裁大法廷判決
「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないものとすることはできないものと解するのが相当である。
けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。」