夫婦の力学3(離婚の自由度4)

明治の法律では、男性の一方的な離婚権を取り上げて裁判所への請求権に格下げしたのですが、10月31日に紹介した条文を見ると男からの請求はほとんど認められる事由がないので、どちらかと言えばこの法律は妻からの離婚請求権を(制限的ですが、)新たに明記・認める方向に重心がありました。
江戸時代まで女性は寺社奉行所や鎌倉の東慶寺等に駆け込む(その場合3年間経過が必要)しかなかったと言われるように、強制的離婚の方法が限られていたことから見れば、特定の場合には夫婦双方から離婚請求出来ると明記したことは大進歩だったのでしょう。
この条文では夫婦双方の裁判所へ訴え出ることが出来る権利ですから、逆に言えば男からの離婚請求はこの制限列挙にあたらない限り・・江戸時代に行われていた三行(みくだり)半・・気に入らない・・今で言えば破綻と言うだけでは認められないことが明記されたのです。
現行法(戦後・昭和22年に男女平等の精神で改正されたものを最近口語体にしたもの)でも同じように「次に掲げる場合に限り、」と制限列挙ですが、戦後は男からの申立制限が視野にはいって来ている点がポイントです。
その現行の第二項を見れば分るように、これらの要件があっても裁判所は(諸般の事情を考慮して)離婚請求を認めないことが出来る仕組みとなりました。
・・借地法では滅多に解約が認められないし、雇用契約では雇い主からの解雇は滅多に認められないのと同様の運用・法制度でしたから結婚のことを戦後永久就職と揶揄されるようになっていたのは正鵠を射ていたと言えます。
この法律が出来た当初は、男による不当な追い出し離婚を防止する・・・女性・母子の生活保障が制度目的でしたので、離婚請求を出来るだけ制限する方向でした。
これが時代の進展によって次第に厳しくされて行き、つい数十年前まで(最近では判例の変更によってほぼ完全な破綻主義に移行しています)は法定の離婚原因がないと事実上認められない運用でした。
以下の条文を見れば、男が主張出来る離婚理由は妻の不貞行為くらいでしょう。
妻が不貞行為をしている場合は妻の方から出て行って帰りませんし、(逃げた女房には未練はないが・・と言う歌の文句そのままです)妻の不貞を理由に夫が別れたければ男の方から裁判までする必要性がないのが普通です。

民法(現行規定)

(裁判上の離婚)
第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
《改正》平16法147
2 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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