男からの離婚請求権を厳しく制限するようになったのは、都市労働者が増えてきて男の経済的自由度が増し過ぎたこともあって、安易な離婚権の行使を旧来の村社会的秩序では制御出来なくなったからとも言えます。
(ただし上記のように、離婚請求・・条件交渉もなしに黙って逃げてしまう実力行使には無力でした)
明治民法では離婚協議が成立すれば別ですが、そうでない限り男には一方的な離婚の自由が(法律上)なくなり、以下に紹介する明治民法813条では「左ノ場合ニ限リ」とあるように法律で決めた要件に合致するときだけ、しかもこれを裁判所が認める方式になったのです。
江戸時代では、法的には男性が離婚を宣言する一方的権利があって(裁判所・・お上が有効性を判定するのではなく宣言すれば効力が生じる形成権です)も、事実上行使出来ないようにしていたのとは逆張りで、男が事実上逃げてしまうのは仕方ないが、法的には認めなくなりました。
それだけ貨幣経済化によって男性の立場が強くなり過ぎて、事実上の制御では女性の立場が守れない・・無理になってしまったからです。
明治民法の戸主権・・男性の圧倒的優位制度と他方で男性側からの離婚請求をほとんど認めなくなった条文を紹介しておきましょう。
解説しなくとも順に読めば分ると思います。
民法第四編(民法旧規定、明治31年法律第9号)
(戦後改正されるまでの規定です)
第四編 親族
第二款 裁判上ノ離婚
第八百十三条 夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ
二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ
三 夫カ姦通罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ
四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ
五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ
九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ
十 壻養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ