02/07/04
江戸時代の相続制度 7(農民)
次に、農民の相続制度を見ておきましょう。
庶民には主従関係がないので、現在で言うところの解雇の代わりに、お家断絶させて既得権・知行を召し上げたいと言う武家のような不純な動機がありませんでした。
江戸時代に入っても法による統制が比較的少なく、慣習法的に前代からの制度を受け継いだ面が多かったようです。
相続には、家相続と財産相続が2元的に行われたのです。
生前処分、死後処分、遺言相続、無遺言相続など多様な制度があり、しかも単独相続も分割相続もありました。
初期には、新田開発などによって、活発に分家が行われましたが、中期以降は、耕地拡大が限界に達して、単独相続が一般化していきました。
単独相続か分割かと言うのは、民主的かどうかという思想問題ではなく、経済問題なのです。
現在は、継ぐべき家業・家産が殆どなく、国民の大多数が勤労者ないし金銭債権が遺産の中心ですから、均分相続が定着しているだけのことです。
江戸時代には、その逆が進行していたと言えるでしょう。
こうした考え方は、平成14年11月24日の「国会の機能3」(贈与税の軽減策)のコラムで書いていますので併せて御読みください。
この点は、武家も同様であり、最初は、結構分割(知)していたのですが、(池田家など見てください何十万石と言う大きさでごろごろと分割相続していますよ。)加増の可能性がなくなってから、単独相続制に移行したのです。
歴史上有名な一族を見れば直ぐ分ると思いますが、兄弟それぞれが武門で活躍し、或いは兄弟で戦っていますが、それぞれが分割相続していたからこそ出来ることです。
家相続とは、家産の相続と言う意味で家督相続とも言い、家名はなくとも襲名の慣行もありました。
相続開始原因は、死亡、隠居、失踪でした。
相続人のことを惣領と言い(武家では嫡子)、末子相続ないし非長子相続は各地にあり、姉家督慣行もあり、武士ほど長男の地位は確立していませんでした。
即ち、現在では惣領というと長男のことを言うように思われていますが、たまたま長男が惣領・相続人になることが多かっただけであって、末の子が相続人になれば末の子が惣領と言われるのです。
また中期以降の単独相続の時代にはいっても、次子以下には、田畑は無理としても何らかの分配はしていたようです。
ちなみに、将軍家でも領地位外は子供に均分に分配するのが原則で、家康の遺産は将軍と紀州、尾張の三家がが均分分配でした。
水戸家だけ少なかったので、水戸家は徳川の氏を名乗ってはいるもの、他の二家とはかなり格下に扱われていますので、(紀州、尾張は大納言家ですが、水戸家は中将家でした・・これが黄門の呼称の由来です)いわゆる御三家ではないのでないかという説の根拠になっています。
それに領地の大きさから見ても、結城(松平)秀康、松平忠直などなど75万石や60万石程度の徳川家康の子供が一杯いたばかりかその後でも、駿河大納言(家光の弟)などもあって、格式からもおかしいのです。
更に言えば、領地の位置も今になってこじつけ的に伊達対策であると言われてますが、あんな場所では要害でもないので、徳川家が攻められるような時代の逆転を想定した場合、とても支えられるような要害の土地では有りません。
また、水戸家に限っての藩主江戸常勤制では、まともに領地経営できませんので当然精強な兵力を維持出来ませんから、この理屈と矛盾してしまいます。
末の子供に捨扶持みたいにやっただけでしたから、(形だけ領地を貰って、江戸城に居候している実質部屋住み状態だったのです。)初代藩主自体が自分1代で終わりだと思っていたと言われています。
平成16年2月1日の「吉宗以降の幕府3」のコラムでも書きましたが、幕末に勤皇の浪士を輩出したことから、明治政府(勿論その意を受けたマスコミ)によって、必要以上に水戸家は持ち上げられている傾向があります。
また娘にも遺産分配は平等が原則ですが、嫁ぎ先の位によって、少しづつ差をつけたようで、秀忠の娘で最も多く貰ったのは、入内した和子でした。
相続に関する考え方は、昔も今も同じで、親の遺産は子供が複数いれば、公平に分配するのを本来としていましたが、ある事業をしているときに分けようのない場合に、事業承継しない他の子供達に、これで我慢してくれと言う姿勢は、変わらないと言えます。
ちなみに、現在独りが一つの家や土地を単独相続する場合、代償として他の兄弟に一定のお金を払ったりして解決することが多いのですが、この支払ったお金を代償金と言って、相続財産分割の対価ですから、贈与税の対象にはなりません。
これが、生産拡大の停まった江戸時代には、たまたま分配になじみ難い土地や家禄の比重が大きく、これ以外の財産は比較にならないほど少なかったので、一見長子単独相続の時代と思われているだけで、底流に平等分配の考え脈々と流れていたのです。
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